2022年12月11日日曜日

2022年度「総合教育演習ゼミ報告会」レポート

 12月10日(土)に、全学共通教育センターに所属する教員が担当する「総合教育演習」のゼミ報告会が開催されました。今年度は、10ゼミが参加し、報告数は19件にのぼりました。

報告会タイムテーブル


 総合教育演習のゼミのテーマは、人文学・社会科学・自然科学などなど非常に幅広く、そのため、報告会の発表は、内容・スタイル共に各ゼミの個性を反映した、多彩なものとなりました。報告会当日、事故でJR中央線が一時的に運休したためにスケジュールを30分遅らせた、といったハプニングがありましたが、それ以外はおおむね順調に発表が行われました。昨年度の報告会は、教室での対面発表とZoomを使用したオンライン発表を併用して実施しました。しかし、今年度は、教室での対面発表とし、最後には参加者が一堂に会する終了式も行い、発表の振り返りを行いました。

 ゼミ報告会で、自らが学んだことの成果を発表すること、そして他のゼミの発表を見て、質疑応答に参加することは、自分たちのゼミ活動を振り返ることにつながります。この経験を今後に活かしていってほしいと考えます。「自然の構造」他担当の榎基宏が記しました。

2022年6月29日水曜日

「教養入門」ゲスト講演 藤原辰史先生 「分解の哲学-『食べること』の文理芸融合的考察」

 自然の構造、教養入門ほか担当の榎です。6月22日(水)の1・2限の「教養入門」に、藤原辰史先生をお招きして、「分解の哲学-『食べること』の文理芸融合的考察」というタイトルで講演を行っていただきました。

 藤原辰史先生は、京都大学人文科学研究所の准教授で、歴史学、特に、農業史と環境史がご専門です。歴史学の専門家ですが、農業の技術や食べ物、環境問題などの理系的なこともかかわる分野の歴史の研究もされています。

 藤原先生の講演は、「分解」を通して「食べること」について考えるものでした。現代は、大量生産・大量消費社会ですが、この社会には大量の廃棄物が出るという問題があります。廃棄物が有機的なものであれば、ミミズや微生物といった生態系の「分解者」が食べて分解して自然に帰します。それを植物が取り込むことで、再び消費できる物が生産されるようになります。人間の「食べる」という行為も、摂取した有機物を「分解」して、排泄して自然に帰す、という意味では人間も「分解者」になります。この視点から、人間社会の在り方を見直し考察する講演でした。例えば、分解できないプラスチック製品の廃棄物の問題、生産者と消費者のみで分解者の視点がない現代の経済学の問題、ごみ処理をする人間社会の分解者の差別の問題、分解の副産物としての芸術、などなど様々なことを通して社会を見直して考えるものでした。しかも、特定の学問分野の枠に固定されない、文系的・理系的・芸術的なさまざまな視点で考えていく、大変興味深くて面白い講演でした。

 今回は、京都にいる藤原先生が講演したものをZoomでつないで、東経大の教室で視聴する、という形式で行いました。Zoomを通した講演でしたが、講演終了後の質疑応答の時に、学生さんからさまざまな意見・質問がなされ、それらにたいする藤原先生の回答も大変有意義なものでした。授業終了時に学生さんに書いてもらった感想には、それぞれの思いや考えが書き連ねられていて、講演が大きな刺激となったことが分かりました。

 教養入門は、3名の教員が交代で授業するリレー講義ですが、1回分の授業は、今回のように、東経大の外部からゲストの先生をお呼びして講演していただくという形式になっています。

・関連リンク


2022年4月27日水曜日

「育つ」のは誰?-国分寺の街と人のあいだで

  心理学ほか担当の野田淳子です。

 私が担当するゼミの総合教育演習(“子育ち”支援と家族関係の心理学)では、今年は久々に課外活動から学びのスタートを切ることができました。座学とフィールドでの実践を行き来して人間の“育ち(発達)”と支援の取り組みについて学ぶこのゼミですが、長引くコロナ禍の影響で、親子イベントの中止や遊び場でのボランティア人数制限などから、これまで続けてきた課外活動自体が昨年・一昨年から任意となり、実施が難しい局面も多々あったからです。

 このたびは国分寺市プレイステーション(通称:プレステ)のプレイリーダー・奥冨裕司さんのご紹介で、武蔵国分寺の史跡公園で“ちょうど良い居場所”という活動を続けていらっしゃる横澤咲穂里さんにお話を伺いながら、近くにある「ぶんじ寮」という珍しい運営形態のシェアハウスを見学させて頂きました。このご時世で16人もの大学生を受け入れてくださることに感激しながら、大学にて全員が検温・手指の消毒を済ませて不織布をマスクを着用のうえ、いざ出発!です。

 大学正門から一気にはけを下り、お鷹の道と水路を横切り、藤森照信氏のタンポポハウスを横目に到着した「ぶんじ寮」。その特徴を少しばかりご紹介しますと、学生達が最も驚いたのは、シェアハウスなのに「ルールがほとんどない」けれども「対話がある」ということだったようです。見学当日も寮の入り口で横澤さんにお話を伺っていると、住人の大学生の方が降りて来て、なんと快く寮案内を買って出てくださり。さすが、ぶんじ寮!です。

ぶんじ寮の屋上にて

 寮では月2回幹事持ち回りでの定例会(ミーティング)のほか、地元の方が届けてくださった野菜で一緒にご飯を作って食堂で食べたり、中庭でひっそりと焚火が始まったり、いつの間にか庭に畑ができたり。20名の住民同士だけでなく、それをサポートする地元の有志、大人・子どもを問わず地元の方々ともさまざまな場や機会、知恵をシェアしたり持ち寄ったりしながら、お金だけでは手に入らない価値を生み出そうとチャレンジされているのだなと思いました。

 「ルールがないということだが、何か問題が起きたときに目を逸らさず、皆で話し合えるという暗黙のルールのようなものが出来ているから、皆が自由に暮らしながら維持できているのだなと思った。子どもたちだけでなく、大人もさまざまな価値観の人たちと関わり合い、話し合うことで視野を広げていくことができると思った」と、レポートに書いた学生もありました。多様な人々がともに暮らすのは簡単なく、きっとこのご時世ならではのご苦労も数々あろうかと思いますが、それ以上の大切さや醍醐味を学生達も感じ取ったのではないかと思います。最後に素晴らしい眺めの屋上へご案内頂き、お天気も気分も最高!真夏の暑さと解放感を満喫しました。

史跡公園にて、横澤さんらと4年生

 見学後は武蔵国分寺の史跡公園へ移動して、“ちょうど良い居場所”のシンボルの大きな木の下で、活動を始められた経緯や居場所づくりにかける横澤さんの思いを伺いました。プレステが移転で目の前から無くなってしまうと知ったとき、「大切なものを失ってしまうということがあるんだなと思った」と、時おり声を詰まらせながら語る横澤さん。コロナ禍で閉場を余儀なくされたプレステを最終日だけ、何とかプレステを開けて頂いて利用者も一丸となって皆でプレステを解体したこと、その一部をまるで“遺品”のように持ち帰る子どもたちもあったとのこと。語られる喪失感は、深い愛情の証です。学生達も、遊び場が子どもにとってのみならず、親や地域の人々にとってもかけがえのない学びと交流の場であることに気づき、目から鱗だったようです。

 このままでは終われない、自分達でできることを実現しようと、毎週月曜に旧プレステに続く武蔵国分寺の史跡公園に集まって、言わば移動式の遊び場、居場所づくりをボランティアで始めた横澤さん。奥富さんをはじめ、プレイリーダーの方々やプレステを利用していた親御さんたちとともに、試行錯誤しながらの活動でした。公園にゴザや本、遊具などを拡げて、かつては大木にブランコをつるし、仲間だけでなく、道行く子ども達や大人が気軽に出入りして羽を休められる場を目指し、今も取り組みを続けています。コロナ禍で活動を続けること自体が難しく感じられることもあるなか、地域や暮らす人々を見守り続け、学生達にも惜しみなく貴重な時間を与えてくださることに、深く頭が下がる思いでした。

野外にて交流を深める2・3年生

 もうひとつ驚いたのは、当日この課外活動の話を聞いた“ちょうど良い居場所”のメンバーの方々が複数駆けつけ、学生達と関わってくださったことです。「家に住むのではなく、町に住むというのは凄いと感じた」との学生の言もありましたが、国分寺市民のパワーを感じたことかと思います。遠出はできなくとも、国分寺はこんなにも緑も人も豊かで良いところなのだと、認識を新たにした学生も多かったようです。この地で見守られ、育った人々が、これからこの地で育つ人々の力となっていく。そんな「順のくぶし」の伝統と底力が国分寺にはある、と実感した課外活動でした。


関連リンク
東京サバイバル
認定NPO法人「冒険遊び場の会」(国分寺市プレイステーションの運営団体)
ぶんじ寮の日常


2022年4月1日金曜日

「教養入門」と「教養ゼミ」のご紹介

 今回は、全学共通教育センターが開講する2022年度の「教養入門」と「教養ゼミ」という授業を紹介します。

 これらの科目は、1年次でのみ履修できる、大学4年間の学びの入門となる授業です。なお、前回の記事で紹介した「総合教育ワークショップ」と「英語で学ぶ教養」は、1年次だけでなく、2年次以降も履修できます。
 
「教養入門」
 教養入門は、3名の教員が交代で担当する、講義形式の授業です。この講義では、いま求められている「教養」の意味について、各教員の問題関心や専門領域を切り口として論じるものです。以下は、2022年度に開講される教養入門のシラバスへのリンクです。

  
「教養ゼミ」
 「教養ゼミ」は、1年次2期限定の演習形式(ゼミ形式)の少人数授業です(定員15名)。教員それぞれの専門分野を活かした内容で「読み・書き・プレゼンテーション」の基礎的な力を高め、2年次以上のゼミ学習の入門としています。2022年度に開講される教養ゼミの授業表題は以下の通りです(表題をクリックするとシラバスを読むことができます)。
 

 なお、上記は、4月1日現在の情報です。今後、変更になることもありますので、ご注意ください。

2022年3月28日月曜日

「総合教育ワークショップ」と「英語で学ぶ教養」のご紹介

 前回の記事で、全学共通教育センターが開講する2022年度の特別授業を紹介しました。今回は、全学共通教育センターが開講する2022年度の「総合教育ワークショップ」と「英語で学ぶ教養」という授業を紹介します。これらの科目は1年次から履修できます。

総合教育ワークショップ
 総合教育科目の様々な分野について、双方向的な授業形式で学ぶ、定員が20~40名の科目です。半期科目で、同一年度に1科目だけ履修できます。授業形式・テーマ・内容とも多様なものを用意しています。2022年度に開講される総合教育ワークショップの授業表題は以下の通りです(表題をクリックするとシラバスを読むことができます)。



英語で学ぶ教養
 英語を使って総合教育科目の諸分野の内容をゼミ形式で学ぶ、定員15名の半期科目です。2022年度に開講される英語で学ぶ教養の授業表題は以下の通りです(表題をクリックするとシラバスを読むことができます)。


 なお、上記は、3月28日現在の情報です。今後、変更になることもありますので、ご注意ください。

2022年3月14日月曜日

2022年度「特別授業」のご紹介

  新年度の授業履修登録の時期が近づいてきました。今回は全学共通教育センターが開講する「特別授業」をご紹介したいと思います。

 「特別授業」とは、「卒業要件表」には載っていない、通常のカリキュラムとは別の授業のことで、「特別講義(特別企画講義)」と「特別語学」の二種類あります。特別授業は、今学んでほしいホットな内容を扱いたい場合などに、期限付きで開講するものです。

 2022年度、全学共通教育センターでは以下の「特別講義」を開講します(科目名をクリックするとシラバスを読むことができます)。

 「特別語学」とは、2~3年の期限付きで開講される語学の授業です。東京経済大学では、毎年開講される常設の語学科目として「英語」、「ドイツ語」、「フランス語」、「スペイン語」、「イタリア語」、「中国語」、「朝鮮・韓国語」、「日本手話」を用意しています。これら常設の語学科目とは別に、2022年度は、下記の4つの特別語学科目を開講します。語学科目では、言語そのものだけでなく、関連する文化や歴史、社会などについても学びます。


 以上、全学教育共通センターが提供する特別授業の紹介でした。各学部の専門科目にも特別授業があります。特別授業は、今、学んでほしい科目ですので、履修の候補として検討してもらえればと思います。

 なお、上記は3月14日現在の情報です。今後、変更になることもありますので、ご注意ください。

2022年2月25日金曜日

言語の内なる多様性

 こんにちは!Здравствуйте(ズドラーストヴィチェ)สวัสดี(サワッディー) Bonjour! (ボンジュール) 你好!(ネイホウ)안녕하세요?(アンニョンハセヨ)

(クイズ:これらは何語でしょう?答えはこの記事の最後にあります。)

 「言語学」を担当する小田登志子です。2021年度に「多言語化する地域社会の理解に資する言語学」と題したプロジェクトに対して大学から助成をいただき、さまざまな言語を話す地域の人々をゲストとして授業にお招きしました。前期「言語学a」に引き続き、後期「言語学b」の様子をご紹介します。また、この取り組みを通して私が気づいた「言語の内なる多様性」について皆さんとシェアしたいと思います。

 後期のゲスト5名は、新宿区にある千駄ヶ谷日本語学校の在学生および卒業生の皆さんです。

     
 イェヴゲニーさんはモスクワ出身です。日本の冬は「全然寒くない」そうです。ロシア語はキリル文字で表記します。キリル文字には英語のアルファベット(ラテン文字)と似ていても発音が違う文字があります。コンビニのコピー機にРусский(ルースキー)と書いてあるのを見たことがありませんか?最初の文字Pは英語で言うとRに相当します。

 マーラーグンさんはバンコク出身です。お寿司が大好きで、お寿司屋さんでアルバイトをしながら日本語学校に通っています。最近は国内で本格的なタイ料理が食べられるようになったので、タイ語をちょっと覚えておくと便利です。「ガイ」は「鶏肉」の意味なので、「カオマンガイ(鶏肉炊き込みご飯)」「トムヤムガイ(鶏肉スープ)」は鶏肉を使った料理だということがわかります。

 ポールさんはパリ出身です。2020年に来日したばかりですが、とても日本語が流暢です。ポールさんに言わせると、日本語は漢字が難しいものの、文法はそれほどでもないそうです。私たちの身の回りにはフランス語がたくさんあります。コーヒーチェーン店の「シャノワール」は「黒猫」という意味ですが、chat(シャ猫) noir(ノワール黒)のように、形容詞が名詞の後ろに来ます。

 江歷彤(コウレキトウ)さんは香港出身です。母語は広東語です。香港では広東語を繁体字で表記します。ちなみに「東京経済大学」を繁体字で書くと「東京經濟大學」になるそうです。江さんは学校で英語と北京語も習ったため、香港にいる時からすでに3つの言語を使用して生活していました。日本語は江さんにとって4つ目の言語です。「飮茶(ヤムチャ)」のように日本ですっかり定着した広東語もあります。

 キム・ヨンジンさんはソウル出身です。国際貿易に関心があり、将来はアメリカに留学したいそうです。朝鮮・韓国語で用いられるハングルは駅の看板でよく見かけます。ハングルの音をアルファベットで表すと「ㅁ(m)」「ㅣ(i)」「ㅌ(t)」「ㅏ(a)」「ㅋ(k)」なので「미타카」は「mitaka三鷹」です。電車に乗る時間が少し楽しくなるかもしれません。

 その他「言語学」では外国語だけでなく、琉球諸語、アイヌ語、日本手話についても紹介するようにしています。このように多様な言語を授業で紹介するうちに、学生から次のような質問が寄せられるようになりました。

「私には読字障害があります。どうやったら外国語が覚えやすくなりますか?コンピュータを使った読み上げぐらいしか思いつかないのですが。」
「私には吃音があります。小さいころから苦労してきました。でも外国語で話す時は吃音が出ません。どうしてでしょうか?」

 読字障害や吃音を持つ人が急に増えることは考えにくいでしょう。つまり、こういった学生さんは今までも履修者の中にいたけれども、声を上げにくかったのだと思います。多様な人々が自分らしく学べる環境を整えているかどうか、常に自分に問う必要があると感じました。

 こうして考えると、言語の一つとして捉えられている「日本語」の中にも実は「方言」「若者ことば」「読字障害」「吃音」「点字」「失語症」など幾重にも多様性が存在することに気づきます。もしかしたら「日本語」とは私たちが考えるよりもずっとあいまいなものなのかもしれません。

 言語の多様性をいかに尊重してゆくかはこれからの日本社会の大きな課題の一つでしょう。「言語学」を通して皆さんとともに考え続けていきたいと思います。

(クイズの答え:日本語、ロシア語、タイ語、フランス語、広東語、朝鮮・韓国語)

・ゲストの招聘に際して、千駄ヶ谷日本語学校のご協力を得ました。この場を借りてお礼申し上げます。

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2022年2月3日木曜日

2021年度「総合教育研究発表会」レポート

 2月2日(水曜日)、2021年度の「総合教育研究」の発表会が行われました。「総合教育研究」は、全学共通教育センターが開講する卒業研究・制作に相当するもので、2年次以降のゼミである「総合教育演習」で学んだ成果を発展させて、論文や制作にまとめあげるものです。2014年度より、全学共通教育センターの公式行事として発表会を開催しています。

 今年度は、コロナ禍のため、昨年度に引き続き、Zoomを使用したオンライン開催となりました。発表したのは、相澤先生麻生先生小田先生・横畑先生、それぞれご指導の計4名でした。1人あたりの発表時間は、質疑応答を含めて30分で、発表のタイトルは以下の通りでした。

発表(1):高校生、大学生への読書推進活動考察〔相澤ゼミ〕
発表(2):〈尊厳死〉の法制化へと向かうことの危険性――「自己決定」と「尊厳」に関する批判的検討にそくして〔麻生ゼミ〕
発表(3):日本の教育現場における吃音者を対象とした合理的配慮に対する理解を促進するには〔小田ゼミ〕
発表(4):NIEの未来―新聞教育で生徒のメディアリテラシーは高まるか-〔横畑ゼミ〕

 総合教育演習・研究の多様性を反映して、様々な分野の研究の発表がなされました。しかし、どの発表にも「日本の将来」という論点が共通して含まれていたと思います。

 発表された学生さんはお疲れ様でした。またご聴講いただいた学生さん、先生・職員のみなさんには厚く御礼申し上げます。「自然の構造」他担当の榎基宏が記しました。