心理学ほか担当の野田淳子です。
私が担当するゼミの総合教育演習(“子育ち”支援と家族関係の心理学)では、今年は久々に課外活動から学びのスタートを切ることができました。座学とフィールドでの実践を行き来して人間の“育ち(発達)”と支援の取り組みについて学ぶこのゼミですが、長引くコロナ禍の影響で、親子イベントの中止や遊び場でのボランティア人数制限などから、これまで続けてきた課外活動自体が昨年・一昨年から任意となり、実施が難しい局面も多々あったからです。
このたびは国分寺市プレイステーション(通称:プレステ)のプレイリーダー・奥冨裕司さんのご紹介で、武蔵国分寺の史跡公園で“ちょうど良い居場所”という活動を続けていらっしゃる横澤咲穂里さんにお話を伺いながら、近くにある「ぶんじ寮」という珍しい運営形態のシェアハウスを見学させて頂きました。このご時世で16人もの大学生を受け入れてくださることに感激しながら、大学にて全員が検温・手指の消毒を済ませて不織布をマスクを着用のうえ、いざ出発!です。
大学正門から一気にはけを下り、お鷹の道と水路を横切り、藤森照信氏のタンポポハウスを横目に到着した「ぶんじ寮」。その特徴を少しばかりご紹介しますと、学生達が最も驚いたのは、シェアハウスなのに「ルールがほとんどない」けれども「対話がある」ということだったようです。見学当日も寮の入り口で横澤さんにお話を伺っていると、住人の大学生の方が降りて来て、なんと快く寮案内を買って出てくださり。さすが、ぶんじ寮!です。
ぶんじ寮の屋上にて |
寮では月2回幹事持ち回りでの定例会(ミーティング)のほか、地元の方が届けてくださった野菜で一緒にご飯を作って食堂で食べたり、中庭でひっそりと焚火が始まったり、いつの間にか庭に畑ができたり。20名の住民同士だけでなく、それをサポートする地元の有志、大人・子どもを問わず地元の方々ともさまざまな場や機会、知恵をシェアしたり持ち寄ったりしながら、お金だけでは手に入らない価値を生み出そうとチャレンジされているのだなと思いました。
「ルールがないということだが、何か問題が起きたときに目を逸らさず、皆で話し合えるという暗黙のルールのようなものが出来ているから、皆が自由に暮らしながら維持できているのだなと思った。子どもたちだけでなく、大人もさまざまな価値観の人たちと関わり合い、話し合うことで視野を広げていくことができると思った」と、レポートに書いた学生もありました。多様な人々がともに暮らすのは簡単なく、きっとこのご時世ならではのご苦労も数々あろうかと思いますが、それ以上の大切さや醍醐味を学生達も感じ取ったのではないかと思います。最後に素晴らしい眺めの屋上へご案内頂き、お天気も気分も最高!真夏の暑さと解放感を満喫しました。
史跡公園にて、横澤さんらと4年生 |
見学後は武蔵国分寺の史跡公園へ移動して、“ちょうど良い居場所”のシンボルの大きな木の下で、活動を始められた経緯や居場所づくりにかける横澤さんの思いを伺いました。プレステが移転で目の前から無くなってしまうと知ったとき、「大切なものを失ってしまうということがあるんだなと思った」と、時おり声を詰まらせながら語る横澤さん。コロナ禍で閉場を余儀なくされたプレステを最終日だけ、何とかプレステを開けて頂いて利用者も一丸となって皆でプレステを解体したこと、その一部をまるで“遺品”のように持ち帰る子どもたちもあったとのこと。語られる喪失感は、深い愛情の証です。学生達も、遊び場が子どもにとってのみならず、親や地域の人々にとってもかけがえのない学びと交流の場であることに気づき、目から鱗だったようです。
このままでは終われない、自分達でできることを実現しようと、毎週月曜に旧プレステに続く武蔵国分寺の史跡公園に集まって、言わば移動式の遊び場、居場所づくりをボランティアで始めた横澤さん。奥富さんをはじめ、プレイリーダーの方々やプレステを利用していた親御さんたちとともに、試行錯誤しながらの活動でした。公園にゴザや本、遊具などを拡げて、かつては大木にブランコをつるし、仲間だけでなく、道行く子ども達や大人が気軽に出入りして羽を休められる場を目指し、今も取り組みを続けています。コロナ禍で活動を続けること自体が難しく感じられることもあるなか、地域や暮らす人々を見守り続け、学生達にも惜しみなく貴重な時間を与えてくださることに、深く頭が下がる思いでした。
野外にて交流を深める2・3年生 |
もうひとつ驚いたのは、当日この課外活動の話を聞いた“ちょうど良い居場所”のメンバーの方々が複数駆けつけ、学生達と関わってくださったことです。「家に住むのではなく、町に住むというのは凄いと感じた」との学生の言もありましたが、国分寺市民のパワーを感じたことかと思います。遠出はできなくとも、国分寺はこんなにも緑も人も豊かで良いところなのだと、認識を新たにした学生も多かったようです。この地で見守られ、育った人々が、これからこの地で育つ人々の力となっていく。そんな「順のくぶし」の伝統と底力が国分寺にはある、と実感した課外活動でした。