2019年8月10日土曜日

東京サバイバル

  心理学ほか担当の野田淳子です。果てしなく暑さが続く毎日ですが、皆様いかがお過ごしでしょうか?猛暑による熱中症で倒れる人々のニュースが世を賑わせるなか、今年も総合教育演習のゼミ生たちは子どもたちとの野外活動に取り組みました。お付き合いが続く国分寺の社会教育施設、認定NPO法人「冒険遊び場の会」が運営する国分寺プレイステーション(通称:プレステ)でのボランティアです。最高気温35℃のこの時期は、常駐プレイリーダーのユウジさん曰く「絶好の水遊び日和」=水遊びでもしないとやっていられない状況で、学生たちはもちろん着替え持参です。午前中から既に陽射しも強く、到着するや否や半裸で裸足の子どもたちと水遊びが始まりました。事細かな熱中症対策に加え、体調に不安を感じたら無理せず涼しい所で休む!が野外活動の鉄則と伝授し、さながらサバイバルです。


 これほどの暑さはできれば避けたいものですが、にも関わらず、なぜ子どもたちと野外で遊ぶボランティアへと赴くのか?と疑問に思う方があるかもしれません。その教育的意義は様々ですが、何よりも学生たちの手で掴み取って欲しいと願う世界があるからです。プレステに通う子どもたちは、筋金入りです。夏の暑さや蚊をものともせず、嬉々として野外を飛び回って1日中遊んでいます。既成品のおもちゃなど無い空間で、ロープを渡ったり、自作の滑り台に水を流してウォータースライダーにしたり、火を起こして食事を作って食べたり。「お鷹の道に釣りに行こう」と誘われた学生たちは、「エサにミミズを捕まえ、釣り具も自分で作るなんて」と驚いていました。もちろん釣果も自ら調理しする子どもたちで、今年はハゼのからあげやザリガニの素揚げが振る舞われたようです。

 時としていたずらや遊びたい気持ちのあらわれとは受け留められないような乱暴が過ぎて、子どもたちは怒られ、怪我をすることもあります。ところが、それでめげるどころか往々にして行為はエスカレートし、何気なく「子どもたちと遊んであげよう」と思って来場した学生のほうが、めげそうになることもあります。お互いにとって意味ある時間と場を紡ぎ出すために、葛藤を味わいながらも相手の言い分に耳を傾け、自分の意見もしっかりと伝え、あるいはプレイリーダーの言動を観察し、あの手この手と試みて、全身全霊で子どもたちと向き合おうとする体験には、答えもマニュアルもありません。そうして、子どもたちと一緒になって目を輝かせ、たとえ泥だらけになっても遊び込めた学生は最強です。当初は考えてもみなかった事態であっても、相手と自分の「楽しい」が織りなす密度の濃い豊かな時間を体得できれば、今だけでなく未来につながる関係性を構築できるからです。どこでも、誰とでも生きていける。「生きる力」とは、元来そんなものではないでしょうか。

 ところが、子どもたちの「いたずら」も遊びの延長として、子どもたちが自ら遊び、自ら気づきを得るのを何よりも大切にしたいと考えるプレステのユウジさんですら、あまりの悪態や落書き、破壊損壊ぶりが目に余るということもあるといいます。しかし、いたずら行為の目的とは何か?に目を向けると、彼らなりに「自律」に向けてフィールドワークをしていることが、透けて見えてくるそうです。例えば「あの人はこうすると怒る。この人はなかなか怒らないけれど・・・?」というように、彼らは様々な大人の反応から仮説検証的に他者理解を深め、社会でうまくやっていく術を身に着けていく途上にあります。プレステ以外の場所では、別人のように良い子である場合も少なくないそうです。残念なことに、こうした意味ある子どものいたずらや迷惑が、許容される前に排除されるのが、今のご時世だというのです。それで本物の自信が、育つのだろうか?と考える、ユウジさんたちプレステのスタッフの胸を借りて「自他の力試し」ができる子ども達や学生達は幸せです。多くの人に支えられ、今を精一杯生き抜く。人は誰しも逞しいサバイバーだと実感する機会は、意外にも身近なところにあるのかもしれません。

 嬉しいことに、学生達の活動する姿を一番評価して下さるのもプレステ・スタッフの方々です。今年も「嫌なことは嫌だと、子どもたちに本気で怒って良いんだよ」とアドヴァイスを頂きながら活動を全うした学生達に、「朝からずっと、積極的に子どもたちと関わってくれてとても良かった」「みな素直で、きちんとしてるよね。喧嘩の仲裁もどうしたら良いか、解らないことはちゃんと聞いてくるし」「ぜひ、また子どもたちと遊びに来て!」といったお言葉を頂きました。学生達も「〇〇(子どもの名)は去年と比べて、ずいぶん成長したな」などと話をしています。この地で40年近くも続く冒険遊び場の活動も、実は今年度が最後です。この武蔵国分寺の史跡公園の傍らからの移転が、決まっているからです。離れてしまうのは誠に残念ですが、プレステの活動がさらに拡がりますように!

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