2018年12月12日水曜日

2018年度「総合教育演習ゼミ報告会」レポート

 12月8日(土)に全学共通教育センターに所属する教員が担当する「総合教育演習」のゼミ報告会が開催されました。今年度は13ゼミが参加し、発表総数は21件にのぼり、2会場分かれての発表となりました。
 
 総合教育演習のゼミのテーマは非常に幅広く、そのため、発表は各ゼミの個性を反映した、多彩な報告会となりました。ゼミの活動報告をする発表もあれば、グループでの研究発表、卒業研究につながる個人研究発表などいろいろな内容・スタイルがありました。インタービューの動画を流したり、聴衆にクイズを出したりなど、各ゼミごとの工夫がみられ、活発な質疑応答がなされた発表もありました。また、聴衆には、本学の現役学生だけでなく、ゼミのOBの方や、学外でも活動しているゼミの関係者である外部の方もいらっしゃいました。報告会終了後は、簡単な懇親会が行われました。立食のもとで、発表時の質疑応答の続きが行われたりなど、話に花が咲きました。

個人研究の発表の様子
 このような報告会で発表すること、そして他のゼミの発表を見ることは、自分たちのゼミ活動を振り返ることにつながります。今回の経験を今後に活かしていってほしいと考えます。「自然の構造」他担当の榎が記しました。
 
2018年度「総合教育演習ゼミ報告会」のご案内
2017年度 総合教育演習「ゼミ報告会」を行いました 
2016年度 総合教育演習「ゼミ報告会」を行いました
2015年度 全学共通教育センター ゼミ報告会が行われました
2014年度 全学共通教育センター ゼミ報告会レポート

2018年12月4日火曜日

2018年度「総合教育演習ゼミ報告会」のご案内

 来る12月8日(土)の13:15より、1号館3階A309、A310教室にて、総合教育演習ゼミ報告会を開催します。「総合教育演習」は、全学共通教育センターが開講している教養を学ぶためのゼミで、人文学、社会科学、自然科学の幅広いテーマを対象とする個性豊かなゼミがそろっています。今年度は13ゼミが参加、21ユニットの発表が予定されています。


 このゼミ報告会は、本学在学生はもちろんのこと、在学生の保護者や、高校の先生・生徒・保護者の方々にも公開しています。申し込み不要、出入り自由です。当日は、経済学部のゼミ研究報告会(6号館3階)と経営学部のゼミ研究報告会(1号館3,4階)も行われます。これらの会場にも自由に出入りして参観することもできます。

 ゼミ選び中の在学生の方、大学での学びに興味のある方、多くのご来場をお待ちしています。

(参考)昨年度のゼミ報告会の様子
        2017年度総合教育演習「ゼミ報告会」を行いました

2018年11月21日水曜日

【学問のミカタ】データの有効活用 ~天文データアーカイブを使った研究・教育~

 自然の構造ほか担当で、天文学・宇宙物理学が専門の榎です。今回の【学問のミカタ】では、天文データアーカイブを使った研究・教育について紹介します。

 天文データアーカイブとは、ある観測時刻における天域の唯一の記録である天文観測データを保管し公開するものです。なぜ、保管し、公開するのでしょうか?その理由は、観測データは非常に多くの情報を持っているので、観測者の目的とは別の視点に立った新たな研究に有効活用できるからです。研究者が天体観測を行いたい時、まず、各国の研究機関が持つ天文台に、観測の目的・方法を説明した提案書を提出します。提案された観測の科学的意義や実現可能性などが審査され、それが認められれば、その天文台の望遠鏡を使って観測できます。観測者が取得したデータは、当初は観測者が占有して研究に使えますが、一定期間(1~2年)が過ぎると、公開されます。公開される理由の一つは、他の研究者による研究成果の検証を可能にするためです。もう一つは、上述した、観測者の目的とは別の目的の新たな研究に有効活用するためです。例えば、観測で得られた画像には、目的天体とは別の天体も映っていることがあるので、その画像は別の天体の研究にも利用できます。また、ある条件で選択した観測データをサンプルとして多く集めることで、統計的な研究に使うこともできます。特に、大型望遠鏡は、数も少なく、使える時間にも限りがあるので、他人が観測したデータも活用した方が効率的に研究をすすめることができます。

SMOKAのデータ検索画面
 天文データアーカイブに保管された観測データを有効活用するためには、目的のデータを効率よく検索し、取得できるシステムを構築すること、および、そのデータを解析するのに必要な情報を提供することが必要です。世界各国の天文台が、このようなシステムを開発し運用しています。日本では、国立天文台の天文データセンターが、世界第一線級の大型望遠鏡である「すばる望遠鏡」をはじめとするいくつかの望遠鏡の観測データを公開する「SMOKA」を開発・運用しています。JAXAの宇宙科学研究所では、人工衛星などにより得られた観測データを公開する「DARTS」を開発・運用しています。

 さて、通常、天文データアーカイブで提供されているのは、天体の観測「データ」であって、天体のきれいな「絵」ではありません。データの形式もFITSという天文データ専用の特殊なもので、一般の画像で使われるJPEGなどの形式とは異なります。しかし、SMOKAには「全天モニタ画像公開システム」というシステムがあり、JPEGの全天画像を提供しています。これは、SMOKAに保管されている画像のうち、デジタル一眼レフカメラを用いた岡山天体物理観測所東広島天文台東京工業大学MITSuME望遠鏡(明野)の全天モニタ画像を対象とした、画像検索および請求システムです。各観測所に設置されている全天モニタは、本来は、観測中に天候状況などをチェックするために、全天を1~2分間隔で撮影した画像をリアルタイムで提供するものです。この全天モニタの画像は、望遠鏡で取得されたものではありませんが、一般に使いやすい画像形式であるので、研究者以外の人も様々な目的に有効活用できます。全天を撮影しているため、天の川全体も一枚の画像で見ることもできます。撮影した時刻の順番で並べると、天体の見かけの動きが分かり、動画にすることもできます。実際に学校の授業などで天体を数か月~数年単位で長期間観測し続けることはなかなかできませんが、このシステムを使えば、そのような長期間の天体の動きも見ることができます。

 今年度の私のゼミ(総合教育演習の「天文ゼミ」)の学生さんたちは、後期に、このSMOKAの全天モニタ画像公開システムから取得した画像を活用して、様々な天体の動きを調べています。システムに保管されている膨大な画像の中から目的の天体が写っている画像を見つけるためには、どのような条件で検索をすればよいかを考え、工夫する必要があります。これは、なかなか大変ですが、勉強になります。この成果は、12月8日(土)午後に開催されるゼミ報告会で発表される予定です。

11月の【学問のミカタ】
・経済学部「『科学的に証明された』健康に良い食品
・経営学部「あなたは予防にお金をかけますか?
・コミュニケーション学部「カニバリズムについて
・現代法学部「ギリシャ・ローマ古典文学における戦争と平和
・キャリアデザインプログラム「」

2018年10月30日火曜日

三鷹・星と宇宙の日2018

国立天文台正門にて
自然の構造」他担当の榎です。10月27日(土)に私のゼミ(総合教育演習の「天文ゼミ」)で、国立天文台三鷹キャンパスの特別公開「三鷹・星の宇宙の日2018」の見学に行きました。

 国立天文台三鷹キャンパスは「常時公開」されており、一部施設の見学ができます。さらに、月に2回、望遠鏡で天体を見る「定例観望会」が開かれています。これらとは別に、年に一回、特別公開日である「三鷹・星と宇宙の日」があります。この時には、通常は見学できない施設も公開され、研究部署ごとの研究の解説展示や、講演会、天体観望会などが行われます。
TAMA300にて 

 まず初めに私たちが見学したのは、「干渉型重力波アンテナTAMA300」です。これは、時空のゆがみが波として伝わる現象である重力波を検出するレーザー干渉計の開発のための施設です。レーザービームを通す300mの地下トンネルは壮観です。現在、ここで開発された技術をもとに、岐阜県の神岡鉱山跡で「重力波望遠鏡KAGRA」が建設されています。

先端技術センターにて
 天文観測のための様々な装置を開発・製作している「先端技術センター」では、工作機械等を見学しました。ここでは、開発にかかわる技術者・研究者の方と直接話をして、さまざまな工夫や苦労を聞くことができました。 

 放送衛星から送られてくる電波を中華鍋でキャッチしてBS番組を見る体験もしました。また、「天文データセンター」が行っている「銀河探しゲーム」にも挑戦しました。このゲームは、星空の画像をパネルに並べ、その中から指定された銀河を見つけ出すというゲームです。ここで使われている星空の画像は、ハワイにある「すばる望遠鏡」の新しい観測装置である「Hyper Suprime-Cam」で取得された非常に高品質のもので、天文データセンターでデータが公開されています。この他にも、いろいろな施設を見学したり、最先端の研究の解説を聞いて回ったりしました。
電波キャッチに挑戦中


銀河探しゲームに挑戦中

 日が沈んだ後は、広場で天体観望を行いました。この広場では、いくつかの望遠鏡メーカー等が展示しているさまざまな望遠鏡を使わせてくれるため、望遠鏡の比較もできました。今回は、星空の撮影に挑戦したゼミ生さんもいました。

 
天文ゼミでは、例年、国立天文台の特別公開日に見学に行っています。その目的の一つは、最先端の研究の現場に行って、その空気を触れることです。なぜなら、実際に、現場で物を見て、人の話を聞くことは重要な経験になるからです。

三鷹・宇宙と星の日2016見学報告

2018年9月13日木曜日

【学問のミカタ】教員の「夏休み」

 フランス語と倫理学担当の相澤伸依です。大学の先生は夏休みをどう過ごしているのでしょう?決して遊んでいるわけではなく、基本的には研究を進め、時には世界各地で行われる学会で研究発表をします。今回は、私がこの夏に参加した学会の様子をご紹介したいと思います。

 8/9〜12にカナダのバンクーバーで国際女性史学会が開催されました。私はここで共同研究者たちと1970年代の日本の女性運動に関するパネルを企画し、発表しました。

  
私の専門は現代フランス思想ですが、最近は日本とフランスにおける女性運動の比較研究も行っています。特に、日本のバースコントロール(産む子どもの数を調整すること、具体的には避妊や人工妊娠中絶を指す)をめぐる実践は独特です。私が注目しているのは、日本の女性たちが経口避妊薬(ピル)の使用を肯定的に受け止めなかったという事実です。そこで、発表ではこのような態度がどのような思想に基づくのかを分析しました。

 私たちのパネルはフランス語で行ったためか、聴講者が少なかったのは残念でしたが、聴いてくださった方々からは有意義な質問をいただけました。学会の一番の山場は発表それ自体以上に質疑応答にあります。やりとりを通して、発表する側も聴く側もテーマへの考察を深め、次の研究へと繋げるのです。
海辺ののんびり感と都会が
隣り合わせの街並み。

 さて、無事に学会発表が終わった後は、しばし街の散策を楽しみました。私の一番の専門は現代フランス思想なので、ヨーロッパにはよく出かけるものの、北米はほとんど馴染みがありませんでした。世界で最も住みやすい街の一つと言われるバンクーバー。東京はもちろん、ヨーロッパの都市との違いを観察しながら歩きました。世界の都市を発見できるのも国際学会に参加する醍醐味です。

学会場の大学もダウンタウン
にありました。

 夏休み中、教員は遊んでいるわけではない!ということがお分りいただけたでしょうか?夏休み明けの授業では、研究の成果を少しでも学生のみなさんに伝えられればと思います。







9月の【学問のミカタ】
・経済学部「η>δ:習慣は目先にまさる
・経営学部「甘酒ブームの加速を阻むもの・・・
・現代法学部「『なので』のなやみ

2018年8月29日水曜日

TKUサイエンスカフェ「静電気と放電」

 自然の構造ほか担当の榎です。遅くなりましたが、7月6日(金)に、学習センターにて開かれたTKUサイエンスカフェの報告です。今回の講師は、独立行政法人 労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所三浦崇さんで、「静電気と放電」というタイトルでお話しされました。



 今回のサイエンスカフェでは、私たちにとって身近な現象である静電気による放電について、いろいろな例から、学ぶことができました。静電気の放電現象は、雷のような自然現象だけでなく、ダイヤモンドでガラスを切断したり、粘着テープをはがしたりする際にも起きるとのことです。この静電気による放電により、ガスや粉塵の大爆発などの災害が引き起こされることもあるため、静電気の放電現象の基礎研究は社会的にも重要なものとなっているとのことです。

 サイエンスカフェは、お菓子を食べ、お茶を飲みながら、最先端の科学研究を気楽に学ぶ場です。本学では、2011年度から、TKUサイエンスカフェと銘打ったサイエンスカフェを開催しています。

参考)これまでのTKUサイエンスカフェのレポート
 2013年度第1回「この夏、天の川銀河の超巨大ブラックホールに接近するガス雲の運命
 2013年度第2回「宇宙は何からできている?
 2014年度第1回「折り紙の数学
 2014年度第2回「ブラックホールの謎に迫る!
 2015年度第1回「コンテンツの生まれかたと受けとりかた
 2015年度第2回「豚インフルエンザについて
 2016年度第1回「ブラックホール、ビッグバン、そして次元 ~人に話したくなる宇宙のおはなし~
 2016年度第2回「コスモスを秋桜と書く理由、秋桜が春に咲く理由
 2017年度第1回「映像世界と身体感覚」 

 2017年度第2回「時間とは何だろう

2018年8月17日金曜日

アーティスト濱村美郷(HAMAMU)さんが徐京植先生のゼミに

■芸術って何だ?

 ジェンダー論ほか担当の澁谷知美です。本学の21世紀教養プログラム(現在は募集停止)の卒業生でアーティストの濱村美郷さんが、6月21日、恩師である徐京植先生のゼミ(総合教育演習)「芸術を通じて考える人間と社会」にゲスト講師でいらっしゃいました。

濱村さんと作品 (c) HAMAMU

 濱村さんは、韓国・ソウルを拠点に、HAMAMU 名義で、ジェンダーやセクシュアリティをテーマとした絵やインスタレーションを発表しています。4度目の個展をソウルで終えたばかりの濱村さんの作品は、とてもパワフルです。

 濱村さんがゲストにいらした徐先生のゼミ「芸術を通じて考える人間と社会」は、芸術作品の鑑賞を通じて、作品に表現されている人間と社会の諸問題について考察します。「すぐれた芸術作品は『ことば』だけでは言い尽くせない人間の複雑な心理や深い感情を、ときには作者自身の意図をも超えて、表現する」ことを前提に、作品が発するメッセージを「全身の感性で受け止め」ることを目指すゼミです。年間、2、3回、皆で美術館などに出かけて作品を鑑賞し、感想を交換しあうこともあります(シラバスより)。

 「『ことば』だけでは言い尽くせない人間の複雑な心理や深い感情が表れている作品」と聞いて、私が真っ先に思い浮かべたのは、1945年8月6日にアメリカ軍によって原子爆弾を落とされた広島の様子を描いた、丸木位里・丸木俊の「原爆の図第1部幽霊」です。

 この絵は、原爆で皮膚がぼろ布のように垂れさがった人、焼け焦げて見分けがつかなくなった顔、まるで幽霊のように手を上げて歩いては、力尽きて倒れた人(上記URLのページにある解説より)が描かれています。「ことば」で「皮膚がぼろ布のように垂れ下がった人」と描写するよりも、その様子を視覚的に表現した絵は、観る者に何倍ものインパクトを与えます。そして、「絶望」、「怒り」、「悲しみ」といった「ことば」だけでは言い尽くせない「人間の深い感情」を私たちはこの絵から読み取り、戦争がどのようなものなのか、人が人を殺戮し、傷害を与えるとはどのようなことなのか、「気づき」を得るのです。

 アートというと、「美しい」、「目に楽しい」ものを思い浮かべる人がいるかもしれません。しかし、そうではない側面もアートにはあります。「『ことば』だけでは言い尽くせない人間の複雑な心理や深い感情」を表現する作品は、なおさらそういう側面を持つでしょう。

 濱村さんの作品も、巷にあふれる「美しい」、「目に楽しい」作品の基準には合致しないかもしれません。が、確実に「気づき」を与えてくれ、「ことば」による説明以上に観る者のイマジネーションを刺激します。


HAMAMU作 無題(2018年) (c) HAMAMU

 この絵には、ワキ毛を剃っている人(画面左側)、脚のスネ毛を剃っている人(画面右側)が描かれています。場所はシャワールームです。左上にシャワーが見えます。ワキ毛や脚のスネ毛を剃らなければならないという、女性にたいする抑圧をモチーフとしたものです。「そういえば、ワキ毛やスネ毛の処理を求められるのって圧倒的に女性だな」、「それはなぜなのだろう?」。そんな「気づき」を与えてくれる作品です。

 画面の左半分が赤で塗りこめられているために、シャワーから出る水は血のようにも見えます。毛剃りでにじむ血を意味しているのか、「『美』への血のにじむような努力」の象徴なのか、女性が置かれた窮屈な世界への「絶望」の表現なのか……。「ことば」によって規定されていないがゆえに、いろいろな考えが浮かびます。

■フェミニズム・アート

 濱村さんの絵は、フェミニズム・アートというジャンルに位置づけることができます。フェミニズム・アートとは、フェミニズムを背景に、1960年代に欧米で生まれたアートの潮流のことです。日常における女性の経験をモチーフにしたり、女性にたいする社会の抑圧を可視化したり、あるいは女性をエンパワーメント(励ましたり、勇気づけたり)する作品が生まれています。

 フェミニズム・アートとして有名な作品のひとつに、アメリカのアーティスト、ジュディ・シカゴの「ディナー・パーティ」があります。女性器をモチーフとした柄が描かれた皿39枚を食卓に並べたインスタレーション作品です。皿の1枚1枚には、紀元前のギリシアの詩人サッフォーや、20世紀に活躍したイギリスの小説家ヴァージニア・ウルフといった著名な女性たちの名前が付けられており、パワフルな女性たちの歴史が過去から現在に至るまで脈々と続いていることを感じさせます。

 フェミニストでジェンダー研究者の上野千鶴子は、女性の表現者がしばしば女性の身体をモチーフにすることを指摘したうえで、ジュディ・シカゴの作品に「女が女自身を回復する」ためのメッセージを見出しました(『女遊び』1999年、学陽書房、18-9頁参照)。

「女が女自身を回復する」とはどういうことでしょうか?このメッセージの意味を理解するには、女性の身体は女性のものでありながら、女性のものでなかったことに思いをはせる必要があります。では、誰のものなのか。実は、「所有者は男たちだった」と上野はいいます(前掲書、19頁)。

 そういえば、女性が痴漢被害をはじめとする性暴力にさらされることはしょっちゅうだし、社会からは「子どもを産め」という圧力をかけられます。異性から不躾なまなざしで見られたり、美しくなかったり、スタイルが良くないと罵倒されます。そうした他者の視線を内面化して、自分で自分を呪い、罵倒することさえあります(「内面化」というのは、外部の影響で身に付けた価値観を、まるで自分の内側から出て来たもののように思いこむことです)。

 そのような社会にたいしてノーをいい、自分の身体の所有者は自分であることを確かめる意味が、フェミニズム・アーティストの女性の身体を描くという行為にはある――上野による「ディナー・パーティ」解釈が示唆するのは、そのようなことです。

 女性の日常や身体を描く濱村さんの作品は、そんなフェミズム・アートの文脈に位置づけられるものです。こちらは、月経カップ(膣内に埋め込んで経血を受けるシリコン製のカップ)をモチーフにした作品。カップを入れる時のポーズの面白さに惹かれ、描いたそうです。よく見ると折りたたまれた月経カップも描かれています。色使いがひじょうにポップです。

 「憂鬱」という意味づけが優位な月経にまつわる身体の動きに、濱村さんは「面白さ」を見いだし、愉快な雰囲気さえ伝わるカラフルな作品に仕上げました。その感性に、「女が女自身を回復する瞬間」を見る気がします。


 濱村さんは、作品にタイトルをつけません。作品にかんする説明も必要最小限にとどめます。なぜなら、観る人に先入感を与えてしまうから。ゼロの状態で観てもらい、観る人それぞれに、それぞれの仕方で解釈してもらう――それがHAMAMU スタイルです。

 フロアからは、「なんだか、気持ちがざわざわする」、「自分が普段ひそかに思っていることを思っている人がこの世に存在するんだということがわかり、勇気づけられる」など、いろいろな意見が飛び交いました。濱村さんのねらいどおりです。

 参加者のやりとりを教室の端で見ながら、「ことば」で説明しないがゆえに、観る者から「ことば」を引き出すHAMAMU スタイルに、私は舌を巻いていました。と同時に、そのスタイルそのものが、「『ことば』で表現できるなら、とっくにしていますよ。『ことば』では表現できないものがあるから、絵を描いたのですよ」というメッセージであるように、私には思えました。

■フェミニズムはすべての人を解放するもの

 濱村さんは2014年に21世紀教養プログラムを卒業しました。同プログラムの授業「オフキャンパス・プログラム」で韓国に行き、ソウルの地下鉄にて、現地のお年寄りから日本語で親切に話しかけられます。お年寄りが日本語を話すに至った歴史的背景を知った濱村さんは、「韓国の人の言葉を理解したい」と思うようになります。

 在学中に1年間の語学留学をし、卒業後、ふたたび韓国に渡りました。そこから数えて、韓国生活は5年目に入りました。

 濱村さんの創作の動機は「怒り」です。「あの中年男性、私が女でなければ、からんでこなかっただろうに」などと、女であるがゆえに日常のなかで覚える「怒り」が原動力になっています。

 とはいえ、濱村さんにとってのフェミニズムは、「女性だけなく、すべての人を解放するもの」。男女問わず、「弱い」とされる者が差別されたり、蔑まされたりしない世界を創るものです。そんな濱村さんの信条に応じるかのように、スポーツで鍛えた太い腕を持つ男子学生が、「コンビニでバイトをしている時、半袖の時期は客にからまれないけど、長袖の時期はからまれる」と自分の経験を話してくれました。

 「いろいろなフェミニズムがあるけれど、関心があるのは、日常にひそむ差別を問題化するもの」と濱村さんはいいます。本学在学中、濱村さんは、「『音姫』の存在こそが、女性が用をたす時の音を必要以上に恥ずかしくしているのではないか」という問いを問う卒論を書きました。

 まさに「日常にひそむ差別」への問題関心にもとづくものであり、その関心は現在も健在です。一方で、作品は変化を遂げており、絵だけでなく、インスタレーションも発表するようになりました。

 初発の問題関心を大事にしながら、新たな表現を切り拓くアーティストHAMAMUから目が離せません。次はどんな作品を発表し、観る者を「ざわざわ」させたり、「安心」させたり、はたまた別の感情を引き起こしたりしてくれるのでしょうか。

 本当は、もう少し紹介したい作品がありました。が、それについては、いつか、また別の機会に別の場所でご紹介できればと思います。あるいは、展示会などで、ご自身の目で見ることのできる幸運が、皆さんに訪れることを願っています。