2022年2月25日金曜日

言語の内なる多様性

 こんにちは!Здравствуйте(ズドラーストヴィチェ)สวัสดี(サワッディー) Bonjour! (ボンジュール) 你好!(ネイホウ)안녕하세요?(アンニョンハセヨ)

(クイズ:これらは何語でしょう?答えはこの記事の最後にあります。)

 「言語学」を担当する小田登志子です。2021年度に「多言語化する地域社会の理解に資する言語学」と題したプロジェクトに対して大学から助成をいただき、さまざまな言語を話す地域の人々をゲストとして授業にお招きしました。前期「言語学a」に引き続き、後期「言語学b」の様子をご紹介します。また、この取り組みを通して私が気づいた「言語の内なる多様性」について皆さんとシェアしたいと思います。

 後期のゲスト5名は、新宿区にある千駄ヶ谷日本語学校の在学生および卒業生の皆さんです。

     
 イェヴゲニーさんはモスクワ出身です。日本の冬は「全然寒くない」そうです。ロシア語はキリル文字で表記します。キリル文字には英語のアルファベット(ラテン文字)と似ていても発音が違う文字があります。コンビニのコピー機にРусский(ルースキー)と書いてあるのを見たことがありませんか?最初の文字Pは英語で言うとRに相当します。

 マーラーグンさんはバンコク出身です。お寿司が大好きで、お寿司屋さんでアルバイトをしながら日本語学校に通っています。最近は国内で本格的なタイ料理が食べられるようになったので、タイ語をちょっと覚えておくと便利です。「ガイ」は「鶏肉」の意味なので、「カオマンガイ(鶏肉炊き込みご飯)」「トムヤムガイ(鶏肉スープ)」は鶏肉を使った料理だということがわかります。

 ポールさんはパリ出身です。2020年に来日したばかりですが、とても日本語が流暢です。ポールさんに言わせると、日本語は漢字が難しいものの、文法はそれほどでもないそうです。私たちの身の回りにはフランス語がたくさんあります。コーヒーチェーン店の「シャノワール」は「黒猫」という意味ですが、chat(シャ猫) noir(ノワール黒)のように、形容詞が名詞の後ろに来ます。

 江歷彤(コウレキトウ)さんは香港出身です。母語は広東語です。香港では広東語を繁体字で表記します。ちなみに「東京経済大学」を繁体字で書くと「東京經濟大學」になるそうです。江さんは学校で英語と北京語も習ったため、香港にいる時からすでに3つの言語を使用して生活していました。日本語は江さんにとって4つ目の言語です。「飮茶(ヤムチャ)」のように日本ですっかり定着した広東語もあります。

 キム・ヨンジンさんはソウル出身です。国際貿易に関心があり、将来はアメリカに留学したいそうです。朝鮮・韓国語で用いられるハングルは駅の看板でよく見かけます。ハングルの音をアルファベットで表すと「ㅁ(m)」「ㅣ(i)」「ㅌ(t)」「ㅏ(a)」「ㅋ(k)」なので「미타카」は「mitaka三鷹」です。電車に乗る時間が少し楽しくなるかもしれません。

 その他「言語学」では外国語だけでなく、琉球諸語、アイヌ語、日本手話についても紹介するようにしています。このように多様な言語を授業で紹介するうちに、学生から次のような質問が寄せられるようになりました。

「私には読字障害があります。どうやったら外国語が覚えやすくなりますか?コンピュータを使った読み上げぐらいしか思いつかないのですが。」
「私には吃音があります。小さいころから苦労してきました。でも外国語で話す時は吃音が出ません。どうしてでしょうか?」

 読字障害や吃音を持つ人が急に増えることは考えにくいでしょう。つまり、こういった学生さんは今までも履修者の中にいたけれども、声を上げにくかったのだと思います。多様な人々が自分らしく学べる環境を整えているかどうか、常に自分に問う必要があると感じました。

 こうして考えると、言語の一つとして捉えられている「日本語」の中にも実は「方言」「若者ことば」「読字障害」「吃音」「点字」「失語症」など幾重にも多様性が存在することに気づきます。もしかしたら「日本語」とは私たちが考えるよりもずっとあいまいなものなのかもしれません。

 言語の多様性をいかに尊重してゆくかはこれからの日本社会の大きな課題の一つでしょう。「言語学」を通して皆さんとともに考え続けていきたいと思います。

(クイズの答え:日本語、ロシア語、タイ語、フランス語、広東語、朝鮮・韓国語)

・ゲストの招聘に際して、千駄ヶ谷日本語学校のご協力を得ました。この場を借りてお礼申し上げます。

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