2018年7月17日火曜日

【学問のミカタ】ドイツの政治教育

 はじめまして。「教育原理」等の教職課程科目、そして総合教育科目「教育学」を担当している寺田佳孝です。今回は、自分の研究対象であるドイツの政治教育について、その特徴を簡単にご紹介したいと思います。

 「政治教育」と言うと聞きなれない言葉かもしれませんが、中学校の社会科、高等学校の現代社会、政治・経済といった科目をイメージしてください。そこでは、政治・経済システム、今の政治や社会情勢などが扱われています。こうした対象について、ドイツの学校でどのように教えられているのかを明らかにするのが、自分の研究テーマです。
 
 それではドイツに注目する理由は何か? それは、ドイツの政治教育が日本とかなり異なっており、示唆に富んでいるからです。たとえば日本の中学社会科・高校公民科に目を向けると、一般的に次の特徴が見られます。

 まず、授業で扱う内容(教育内容)について。学習指導要領や教科書記述では、政治・経済制度や概念の説明が中心です。政治争点や社会問題は扱われてはいますが、概説的に説明されるケースが目立ちます。とくに政党や社会集団、専門家の見解等が引用されることは、あまりありません。
 次に、生徒の学習活動について。教科書で今の政治・社会問題を扱う場合も、数ページで辞書のように書かれ、しかも教師主導で説明を読み上げるスタイルが一般的です(例外はあります)。これでは結果的に、生徒は、政治・社会課題を自ら判断することができなくなってしまいます。

 では、この2点について、ドイツの教育を見てみましょう。

 まず教育内容について。ドイツの場合、多くの政治の教科書は、政治的・社会的争点や問題点を主に扱います。たとえば、社会保障の章で「子どもの貧困」「失業生活」に焦点化したり、国際政治の分野で「ドイツ連邦軍のNATO軍事行動への参加」の是非を大きく扱います。
 そして学習方法について。一般に現代ドイツの教科書は、新聞や雑誌からの引用、統計データ、政治風刺等の「資料」と、「自分の考えを書く」「インターネットや図書館で情報収集する」「政党や関連団体のスポークスマンを呼び、インタビューする」等、生徒の主体性を求める「課題」から構成されます。つまり、生徒の主体的な学習活動が予定されているわけです。

 もちろん、ドイツの政治教育にも疑問はあります。「政治的に『偏って』いるのではないか」「教科書は立派でも現場の実態はどうなのか」。ドイツの政治教育の教科書や、ごく限られた「トップ校」のすばらしい政治教育実践だけに注目し、「ドイツの政治教育はすごい」と称賛するような姿勢は、避けなければいけません。しかしながら、少なくとも「政治を生徒の身近な存在にすること」「自ら政治・社会問題を調査、議論し、意見をはっきりさせる学習」、これは、日本の教育に再考を促すものでしょう。

7月の【学問のミカタ】
・経済学部「復興支援の経済学
・経営学部「Amazonが覆しつつある常識・・・
・コミュニケーション学部「アスリートは勝負をどう学ぶのか
・現代法学部「裁判員って何をするの?
・キャリアデザインプログラム「就職活動ではなく『入社活動』を!

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