日本文学の古典分野を担当しております、上野麻美です。私の担当する「総合教育ワークショップ(日本文学)」では「くずし字いろは入門」というタイトルで、変体仮名を読む授業を行っています。
変体仮名(くずし字)は、一般にはもう使われなくなった古い仮名文字であり、古文書の研究者や書道を嗜む人といった、ごく限られた人々の間でだけ、読み書きがされています。しかし、老舗商店の看板、名所旧跡の歌碑や句碑など、現代の私たちが目にする変体仮名は意外と多いのですよね。こうした身近な変体仮名を読むことによって、日本の古典文学に親しみ、教養を深めようというのが、この授業の趣旨です。
授業では、一通りの変体仮名が読めるようになった時点で、『源氏物語』の巻名を変体仮名で記した教材を使い、力だめしをします。実はこの教材は、投扇興の点数表になっていて、巻名が読めるようになったら、受講生に実際に投扇興を体験してもらうことになっています。
さて、この「投扇興」を皆さんはご存知ですか?テレビで見た人もいるかもしれませんね。「さんまのまんま」という番組に、女優の宮沢りえさんが出演したさい、投扇興を紹介していました。
投扇興は、小さな的に向かって扇を投げて当てる、という優雅な遊びです。江戸時代に大流行し、人々が熱狂するので幕府から禁止令が出るほどでした。その後、花街でのお茶屋遊びの一つとして、あるいは寄席の色物芸として、細々と残ってきました。しかし、近年、古典遊戯として流派の確立が進み、「粋な大人の遊び」として多くの人々が気軽に楽しめるように、普及活動が行われています。
「くずし字いろは入門」では、去る7月15日に、「都御流(みやこおんりゅう)」という流派の家元でいらっしゃる小林粋扇先生と、そのお弟子さん方にお越しいただき、投扇興の歴史や遊び方についてご指導いただきました。
掲載写真は、決勝戦に残った二人の学生の対戦の模様です。真ん中の和服姿の方が、家元小林粋扇先生です。ほとんどの学生が、投扇興で遊ぶのは初めての体験でしたが、家元とお弟子さん方の懇切丁寧なご指導により、初心者でも楽しく学ぶことができ、充実したワークショップとなりました。
都御流の方々には来年1月にもご指導ただく予定です。受講者でなくても見学は可能です。興味のある方は、上野までお問合せ下さい。