2015年10月28日水曜日

読書会 J.S.ミル『自由論』レポート

「地球の科学」ほか担当の新正です。図書部で一緒に活動している経営学部の板橋雄大先生に、10月16日の読書会の様子をゲスト執筆していただきました。

                                       

10月16日金曜日に、菊地建至先生をお招きして読書会が行われました。今回のお題本は、J.S.ミルの『自由論』でした。

古典でありながら、現代においても全く色あせることのないまさに名作です。
実は古典の名作って、読書会のテーマ本として考えた時に、新しい解釈の展開の余地があまり残っていない気がして、避けられがちなのですが、そこはやはり百戦錬磨の菊地先生、見事な盛り上がりでした。

ブラウジングスペースが一杯
菊地先生には、昨年も読書会のファシリテーターをお願いしており、その時はニーチェの『喜ばしき知恵』を取り上げられました。その時も大好評で、参加者からは、「まるでニーチェが隣のおじさんであるような親近感を覚えた」という感想も出るほどでした。そのためか、今回も大好評で申込者数は37名にもなりました。

今回は、図書館のブラウジングスペースを使い、菊地先生の周囲を取り囲むようにしての読書会となりました。最初は菊地先生から、ミルの自由論についての簡単な解説や、先生の気になった部分などが紹介され、そのあとで、参加者から本当に思い思いの質問や感想が出されました。中には、自由論の枠組みでとらえきれないような質問もあったようには思うのですが、そうした発言は一つ一つ菊地先生によって、料理され、見事な「自由論」仕立ての一皿となっていました。

議論中
というのも、実は菊地先生は、街中で哲学するための試み「哲学カフェ」を長くおやりになっておられ、様々な参加者との対話を重ねてこられた先生なのです。ですから、今回の参加者からの質問や感想についても、意図を汲んでわかりやすくまとめて下さっていたのが印象的でした。

読書会初参加の方も相当数いたのですが、菊地先生が作り出された流れに乗って、いつの間にか積極的に読書会に参加できていたのは、本当に驚きでした。

参加者の質問のなかで最も面白かったのは、「ミルはなぜ自由論という1冊の本の中で矛盾した発言をしているのか」というものでした。

その点についての議論は、「ミルは確かに矛盾した発言をしているが、それはこの本の執筆された時代背景の中では、やむを得ないものである」という結論になったのですが、古典の名作である『自由論』について、そうした時代背景的な限界が存在しているのは、指摘されるまで想像していなかった参加者がほとんどだったのではないでしょうか。個人的にも、ここは一番の収穫でした。

菊地先生が作り出した「自由論」の世界も、やがては閉幕の時間を迎えます。

とはいえ、その時間があまりにも心地よかったため、読書会の時間が終わっても、ほとんどの参加者が名残惜しく、菊地先生の周りには長く人垣が絶えませんでした。

皆さんも、こんな自由な読書会に参加してみませんか?お問い合わせは図書館カウンターまで。

2015年10月25日日曜日

海外ゼミ研修 ~英語で日本文化を発信~


 英語を担当しているカレイラです。私のゼミ(総合教育演習)の1つの目標が英語で日本文化を発信するということで、今年の9月にハワイのホノルルで、小学校では折り紙を老人ホームでは落語と折り紙を英語で行ってきました。本ゼミには英語が得意な学生から苦手な学生までいろいろな学生がおりますが、各自の持ち味を生かしてどの学生も頑張って英語を駆使して日本文化を伝えてきました。以下は英語で落語を行った矢野君からのレポートです。

今回のカレイラゼミのハワイでの夏季研修で、我々は本願寺ミッションスクールでの折り紙教室を行いました。遊べる折り紙を作っている中で、紙相撲が大人気で、男の子は特に熱中していました。
 
ミッションスクールでの折り紙教室


また、後日ハワイの老人ホームにて英語落語の公演および折り紙教室を行いました。落語の演目は「時そば」改め「時パスタ」。内容は日本のものと大して変わりませんが、現地のマナーに合わせ、改変を加えました。英語落語を演じるにあたって、英語に訳す段階でいかにわかりやすく伝えるかを最優先事項としてネタを書きました。本番ではお客様の前でうまくできるか不安でしたが、何とか演じきることができました。お客様からは面白かった、などのお声をいただき、公演は成功を収めました。

老人ホームで英語で落語

 ・参考 大学ニュース夏季海外ゼミ研修 成果報告会
 

2015年10月20日火曜日

【学問のミカタ】ハロウィーンってそもそも何?

 「外国史I」他を担当している高津です。
 10月31日はハロウィーン。皆で仮装して集まる日として、日本でもすっかりお馴染みになりましたね。パーティなどに参加する予定のある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 ハロウィーンの意味は「万聖節の前日」です。万聖節とはキリスト教の祝日。御存じのようにキリスト教はローマ帝国で迫害されていた時代、多数の殉教者を出しました。彼らの一部は聖人として信仰の対象となっており、そしてそのまた一部の者たちは独自の祝日をもっています(例:「石打ちの刑」によって死去したキリスト教史上最初の殉教者、聖ステファノの祝日は12月26日)。しかしそれほど有名でなく、自分の祝日を割り振られていない殉教聖者たちは、この11月1日の万聖節にまとめて祀られることになりました。

 さらに時代をさかのぼり、ヨーロッパにキリスト教が広まる以前、10月31日は1年の終わり、大みそかでした。ケルト人は11月1日を元日に定めていたのです。そしてこの前後、10月30日から11月2日までの期間は、死者が生まれた家に帰ってくると信じられていました。この異教的な(日本でいうところの)「お盆」を、教会はキリスト教の祝祭日としてしまったわけです。

 ルターによって宗教改革が開始されると、プロテスタントは聖人崇敬や迷信的な民間信仰を否定しました。ピルグリム・ファーザースとしてアメリカ大陸に渡り、後の合衆国の基礎を作った人々はプロテスタントでしたので、ハロウィーンを祝っていません。子どもたちが魔女やお化けの仮装をして、ジャック・オ・ランタンを手に家々を訪ねるというお馴染みの形式がアメリカ合衆国で広まったのは今から約200年前のこと。キリスト教の歴史やアメリカ合衆国(北米植民地)の歴史と比べて、それほど長い伝統があるわけではありません。私は仮装パーティにも興味がありますが、それ以上に、日本でブームになっていまだ数年でしかないこの祝祭がこの地で伝統として根付くことができるのか、その過程でどのような変化を辿るのか、興味があります。そしてその歴史をつくっていくのは、皆さんです!

2015年10月12日月曜日

言葉が話せれば...

国外研究員としてフランスに滞在中の相澤伸依です。早いもので、フランスに来て半年が経ちました。生活にも慣れて少し旅行をする余裕もできたこのごろ。この週末は、ドイツのフランクフルトに行ってきました。

フランクフルトには
欧州中央銀行があります。
ヨーロッパには何度も来ていますが、実はドイツに行くのは初めてでした。というのも、ドイツ語が全くわからない、英語も苦手な私は、なんとなく不安で気が向かなかったのです。今回は、電車の安いチケットが手に入ったので、せっかくだから行ってみようと思い切ったのでした。

初ドイツはどうだったか?心配するには及ばず。街歩き、ミュージアム、オペラ、蚤の市、食など、三日間に盛り込めるだけ盛り込んで、足が棒になるほど歩き回って、満喫しました。オペラ座では隣席の親切なマダムとおしゃべりをし、蚤の市では値切り交渉をし、屋台ではソーセージとビールのおススメを注文し...。現地の人との接触があると、旅行が一層楽しくなります。

旧市街のかわいい建物。
古い建物と高層ビルが共存していました。
蚤の市、賑わっていました。
物を大事にする国民性の象徴?












下手な英語でもなんとかなる!と心強く思う一方で、英語がうまく話せたら、ドイツ語が少しでも話せたら、もっと楽しいだろうなとも思いました。私にとってフランスは外国ですが、フランス語が話せるので、生活も人との交流もとてもスームズにできます。言葉ができると、経験できること、楽しめることがぐっと増えるんですね。

こういう自分の経験もふまえて、若い学生の皆さんには、英語はもちろん、いろんな言葉に触れてほしいなあと思っています。海外に出かけた時、あるいは日本で外国の方と出会った時、少しでも言葉を知っておくことが経験を豊かにするからです。

以前も書きましたが、本学では洋の東西を問わず、様々な語学の授業を提供しています(ドイツ語、フランス語、スペイン語、イタリア語、中国語、朝鮮・韓国語、日本手話、ビルマ語、ロシア語)。来年の履修計画にぜひ語学もご検討ください。

*今すぐ語学を勉強したい人!NHKラジオの語学講座は10月から新学期がスタートしました。ネットでも聴けますので、今からでも間に合う!

**本学でイタリア語初級、中級を教えている朝岡直芽先生が、NHKラジオ「まいにちイタリア語」の応用編を担当されています。応用編だから難しいけれど、イタリア語の音と、朝岡先生のトークを聴いてみては?

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2015年9月23日水曜日

【学問のミカタ】西に傾く月を見れば、いざや我も

と、連作ブログを書いてみる、「地球の科学」ほか担当の新正です

「月」について記せとのお題をいただいたものの、あまりアイディアなく、最近耳にした言葉や授業で述べていることなどを数件断片的に連ねてみます。乱文乱筆お許しを。

【中秋の名月】9月の題材に「月」がとりあげられたのは中秋の明月に関連してのことと思います。中秋の名月は、秋分になる日の前の新月の日を起点に数えた15日目の月のことをいうそうです。今年は9月27日が中秋、翌28日が満月です。さらに28日には月の地球に対する2015年における最接近がおこるので、特に月が大きく見えるスーパームーンにもあたります。お天気が良ければ時には月を眺めてみましょう。宵に東の空に昇る月は一段と大きく見えて趣深いのではないでしょうか。
※国立天文台「暦Wiki」の「中秋の名月

【ブルームーン】今年起こった「月」にかんする現象として「ブルームーン」があります。これは、青い月が昇るわけではなく、ひと月の間に2回目の満月となることで、7月31日がそうでした。Blue Moonというとジンベースのカクテルの名前、あるいは、スタンダードナンバーの一つとしても有名で、YouTubeにもいろんな人の歌唱が上がっているので検索してみてください。

【月食】月食は時々起こる現象で、昨年は10月8日に皆既月食があり、はからずも図書館前で臨時観望会がおこなわれました。

今年も4月4日に月食があり、天文学の榎ゼミでは観望会を計画したそうですが曇天で叶わずとのこと。

なお、先に述べた中秋の明月の9月28日には皆既月食が起こるのですが、北米東部、南米、ヨーロッパ・アフリカ東部で見られるもので、日本では見られず残念。次に日本で皆既月食が見られるのは少し先で、2018年の1月31日です。真冬だから晴れる確率が高いでしょうか。

【月の表裏】相手によって態度を変える人のことを裏表のある人、というがごとく、月も地球に対して常に同じ面を向けているので裏表があります。英語では月の表・裏をnear side、far sideと言いますが、なぜだかわかりますか?

【Moonquake】アポロ計画で月の石などが持ち帰られたことは、ご存知の方が多いと思いますが、逆に月面に置いてきたものもあります。そのひとつに月面に地震計を設置するというプロジェクトがありました。アポロ12、14、15、16号で少し離れた位置に設置された地震計によるおよそ8年間にわたる観測の結果、30個近い震源の浅い大きめの地震や7000個ほどの深部で起こる微小地震などが観測され、月の内部構造の理解に重要なデータがもたらされました。月で起こる地震はearthquakeに対してmoonquakeと呼ばれることが多いようですが、しゃれた言い方ですね。

2015年9月11日金曜日

フィールドワークのジレンマ


文化人類学ほか担当の深山直子です。今年は夏が大急ぎでやってきて大急ぎで去ってしまった感がありますね。関東から東北にかけて昨日から大雨が降り注いでおり、被害が最小限に留まるよう祈るばかりですが、みなさんいかがお過ごしでしょうか。

大学教員は教えることと研究すること双方から成り立っている職業ですので、夏季休暇は後者に集中するための大切な時間です。私は文化人類学者で、対象地域でのフィールドワークを重要な研究手法と位置付けていますので、夏にはたいてい研究室を離れフィールドに向かいます。

先月、学生以来ずっと研究対象としているニュージーランドに、10日間ほど行ってまいりました。この国自体は、日本でも大分知名度が上がったので、みなさんもオーストラリアの東側にある細長い島国だ、ということはご存知かと思います。しかし、私が関心を寄せているマオリという民族となると、聞いたことがないというひとやオーストラリアのアボリジニと混同するひとが多いようです。

マオリの祖先は、今からおよそ700年前に現在はニュージーランドと呼ばれるようになった島々に、カヌーで海を越えてやってきたポリネシア系のひとびとです。1800年代半ばにイギリスが植民地化を推し進め、マオリはマイノリティの立場に甘んじざるを得なくなりました。しかしながら、粘り強い権利・地位の回復運動の結果、現在ではこの国で先住民として大きな存在感を発揮しているといえるでしょう。

さて、マオリは部族集団に分かれていて、集団はそれぞれ全国各地に領域を持っています。しかしながら、第二次世界大戦以降、仕事を求めて故郷たる領域を離れ、都市に移入するマオリが急増しました。私はこのようなひとびとに強い関心を持っており、従って最大都市オークランドにおいて、マオリ人口比率の高い南部郊外を拠点に、マオリ家族のもとで居候しながらフィールドワークを実施してきました。

人類学では、しばしば長期にわたる継続的なフィールドワークが重要だといわれます。大学教員になった今、それは叶わないわけですが、最近は「戻り続けること」の意義を噛みしめています。時に前の滞在から1年にも及ぶ間が空いてしまったとしても、あるいは戻ってきたところで1週間ほどしか滞在できなかったとしても、再び同じ場所に同じひとびとのところに、戻り続けるということ。それにより私はかれらにとって、「非マオリ以上マオリ未満」、あるいは「家族ときどき他人」という存在になってきている、と実感する機会が今回も多くありました。このことは、私がマオリのところに戻るとスイッチが切り替わり、かれらと同じように考えたりふるまったりできるようになってきている、ということの証でもありますが、同時に「非マオリ」・「他人」としてのまなざしが薄らいでいるということをも意味します。以前だったらば、「異文化だ!」と気付けていたことが、当たり前・普通になり、注意を払わなくなるわけです。

例えば、マオリと日常生活を送るなかでみられる、「いとこ」、「おば」、「おじ」といった概念の広さと使用頻度の高さ。その場にいるみなで一緒におなか一杯食べることに置かれる高い価値。親や祖父母が暮らしていた故郷に対する強い帰属意識。ヨーロッパ系住民や太平洋島嶼系住民、あるいはアジア系住民に対するステレオタイプ。こういった事柄が垣間見せる、現代マオリ社会・文化の在り方について、私はわかったつもりになっていないだろうか。言葉にしてどのような議論ができるだろうか。いかなる学問もそうですが、研究に終わりはありません。対象と長く深く付い合うことによって生じるジレンマを、改めて強く感じた夏季休暇でした。

【参考】
深山ゼミ、公開授業のおしらせ  

2015年9月8日火曜日

石垣島でゼミ合宿

 「自然の構造」の講義と総合教育演習の「天文ゼミ」を担当している榎です。今回は、天文ゼミの夏合宿の報告をします。今年度は、沖縄の石垣島にて、92日~5日と34日で合宿を行いました。

御神崎灯台から見た風景
1日目に、羽田空港を出発し、那覇空港で飛行機を乗り継いで石垣島に入りました。日が沈むころに、島の西の端に近い御神崎(おがんざき)灯台から少し離れた何の明かりもない所で、天体観察を行いました。なお、東経139.5度の東京に比べると、石垣島は東経124.2度とかなり西にあるので、この日の日没は19時ごろで、すっかり暗くなったのは20時過ぎでした(東京の日没は18時)。雲が出ていますが、晴れている部分から星々がたくさん見えます。天の川もはっきりと見えました。じっと眺めていると、人工衛星や流星も見られます。また、周囲の草むらに、ホタルのように光るけど飛ばない、何かの幼虫がぽつぽついます。後で分かったことですが、石垣島には、幼虫でも光るタイプのホタルがいるそうです。

石垣島天文台
 2日目は、フサキビーチで海水浴を楽しんだ後、石垣島天文台を見学しました。ここには、口径が105cmで、九州・沖縄地方で最大の望遠鏡である「むりかぶし望遠鏡」が設置されています。その次に、国立天文台VERA石垣島観測局の見学に向かいました(VERAについてはリンク先を参照してください)。ここには、直径20mの巨大なアンテナの電波望遠鏡が設置されています。日没後もここに留まり、天体観察を行いました。残念ながら雲が多かったですが、さそり座の全体をはっきり見ることができました。 
VERA石垣島観測局

むりかぶし望遠鏡
 3日目は、船で隣の竹富島へ向かい、水牛車に乗ったり、コンドイビーチで海水浴を楽しんだりしました。夜は、1日目に行った所で再び天体観察を行いました。この日は、1日目に雲で見えなかった北斗七星と北極星が見えました。東京は北緯35.6度で、石垣島は北緯24.4度なので、北極星は東京で見るより低い位置で見えます。この日も、天の川がはっきり見え、多くの星々を観察することができました。地面に寝転がって一晩中星を眺めていたい気分でしたが、残念ながら、しだいに雲が多くなって星が見えなくなってしまいました。
天の川
川平湾


 最終日は、川平(かびら)湾や底原ダム等を見学してから、空港に向かい、那覇で飛行機を乗り継いで羽田に戻ってきて解散、となりました。

 今回の合宿で石垣島に行った理由は、石垣島が「天文学者が選ぶ星空がきれいな場所ベスト3」に入っているからです(他の2か所は、長野県南牧村と岡山県井原市美星町)。今回は、一晩中すっきり晴れることはありませんでしたが、短時間でも素晴らしい星空を観察することができました。自然を相手にしていると、人間の考えた通りに物事は進みません(人間相手でも、なかなか進みませんが)。そういったことを実感することも、天文ゼミの学習の一環だと考えています。

2014年度 八ヶ岳山麓でゼミ合宿
2013年度 海外ゼミ研修 in Hawaii 
2013年度 海外ゼミ研修 in Hawaii (続)
2013年度 海外ゼミ研修 in Hawaii (続々)