2019年10月30日水曜日

三鷹・星と宇宙の日2019

 「自然の構造」他担当の榎基宏です。10月26日(土)に私が担当する総合教育演習の「天文ゼミ」で、国立天文台三鷹キャンパスの特別公開「三鷹・星の宇宙の日2019」の見学に行きました。

 国立天文台三鷹キャンパスは、通常、「常時公開」されており、一部施設の見学ができます。さらに、月に2回、望遠鏡で天体を見る「定例観望会」が開かれています。これらとは別に、年に一回、特別公開日である「三鷹・星と宇宙の日」があります。この日には、常時公開では見学できない施設も公開され、研究部署ごとの研究の解説展示や、講演会、天体観望会などが行われます。
 
 天文ゼミでは、例年、特別公開日に見学に行っています。2年生の時から3年連続で参加した4年生のゼミ生さんもいます。今年も、太陽塔望遠鏡重力波アンテナTAMA300などの様々な施設を見学し、銀河探しゲームや中華鍋を使っての宇宙から来る衛星放送電波の受信などに挑戦したり、サイエンスカフェに参加したりしました。

左:電波望遠の前で  右:太陽塔望遠鏡の内部
銀河探しゲーム挑戦中



 今回参加された学生さんの感想の一部を以下に掲載します。
  • 古い歴史的な天文学の技術から、最先端の宇宙研究の話題まで幅広く学べていい機会だった。
  • 中華鍋での衛星放送の受信は、思ったより早く電波が拾えて、BS放送がきれいに映った。
  • 例年参加している銀河探しゲームは、前年度に比べて探すスピードが上がって面白かった。
  • 青空サイエンスカフェに参加した。幼稚園生くらいの小さな子供も積極的に話に加わっていて、演者と聴衆が対話できるサイエンスカフェの醍醐味を実感できた。
実際に、見て聞いて参加して、いろいろなことを学ぶことができたようです。

三鷹・星と宇宙の日2018見学報告

入笠山でゼミ合宿(2019年天文ゼミ合宿報告)

2019年10月16日水曜日

私たちの常識は、非常識?

 心理学など担当の野田淳子です。今年も1期から始まった「多様性社会に資する心理支援を実践するa(1期)b(2期)」の特別授業が、早くも2期(後期)に突入しました。2期は2回目の授業にしてゲスト講師をお呼びするという大胆な構成で、ご登壇くださった山本篤さん(関東聴覚障害学生サポートセンター)が開口一番、「この中で、聴覚障害の人に会ったことのある方はありますか?」と質問すると、意外にも一定数の学生がパラパラと手を挙げました。アルバイトで接客をした経験のある学生も、複数あったようです。

山本さんの授業風景

 山本さんは重度の聴覚障害をお持ちの当事者で、現在は右耳のみ補聴器をつけてかろうじて聴き取れる程度の聴力だそうです。普段は大学等で障害を持つ学生や教職員のサポートに携わる仕事をされていますが、今回は「ろう者の常識は、聴者の非常識?」という興味深いタイトルで、2名の手話通訳者の方の言葉を通して授業をして頂きました。ちなみに手話通訳は、英語ニュースの同時通訳のようなスキルと労力を要するため、内容や時間によっては2名以上付くことがあるのです。実は「口話」もできる山本さんですが、手話の重要性に気づいて大学時代にマスターされたそうで、手話のほうがより多くの考えをきちんと伝えることができるため、「授業は手話で」という話になりました。たとえ聴覚障害を持つ方と出会ったことのある学生でも、多くは「耳が聞こえないから補聴器をつけている」など漠然としたイメージがある程度で、同じ「聴覚障害」でもその聞こえ方は人それぞれであること、補聴器をつければ音が聴こえるとは限らないことをはじめ、「ろう者」と「聴覚障害者」の違いなど、初めて知ることばかりだったようです。 

 “ワークショップ形式”のグループワークでは「ろう者と聴者のすれ違い」や「ろう者の困難」に焦点を当て、ろう者(聴覚障害者)に関して「どんなところで困っていそうか?」「接して、自分はどんなところで困ったか?」といったお題が出されました。山本さんは各グループの見解ひとつひとつ、例えば「演劇を見るときに困るのでは」という意見には「良い質問です!最近は芝居の音声を字幕化するタブレットを貸し出すところも増えています。先日は字幕のタブレットを見て、歌舞伎を楽しみました」、「(ろう者と)ぶつかりそうになった」という経験に対しては「これはどういう意味でしょう?ろう者は聞こえない分、注意して周囲を見回したりすることもあるのですが、どういう状況だったのでしょうか?」など丁寧にコメントをして下さり、広がっていく対話に学生達も身を乗り出して参加していました。「沸騰したお湯やインターホンの音がわからない」「飲食店での注文が難しい」「適切な声や音の大きさが解らない」「補聴器をイヤホンと勘違いされる」といった日常の困りごとから、「災害時の警報に気づけない」「キャッシュカード紛失時の本人確認が電話でできない」「歩道で自転車の呼び鈴に気づけず、ぶつかってしまった」など深刻な出来事に至るまでお話しいただき、「自分が想像する以上に、ろう者の方が感じる困難が多かった」との声が、授業後のレポートでは多数寄せられました。「赤ちゃんの泣き声がわからなくて、夜は我が子の手を握って寝ていた」という子育てのエピソードにもびっくり仰天、知れば知るほど「聴者の常識は、ろう者の非常識?」です。

グループワークの様子

 特に「情報保障」という概念は目からウロコで、インターホンの音を点滅で知らせる、スマートフォンを介して文字を音にして伝える、最近では状況判断に必要な“雑談”を拾って文字化する機器が出てくるなど、テクノロジーの進歩によって様々な情報が提供されるようになりました。情報保障は、「相手のニーズ」「その場の状況」「情報保障の方法」が合っているか?の3点を考えることが重要とのことでした。緊急時のツイッター利用や、その場ですぐに文字や商品情報などを提示できるスマホは、聴覚障害者にとっては画期的なインフラです。しかし、「昔よりも手に入る情報が増えたが、情報量がかなり多くなって理解するまでに時間がかかり、体力の消耗も激しいという実態を知ることができた」という学生のコメントに見られるように、利用しうる情報や手段が増えたことは諸刃の刃でもあります。また「耳が聞こえない」ことから生じる二次的・三次的な障害や社会的な不利益、例えば「解ったふり」をせざるを得ないと感じ、結果的に人と会うのが億劫になるなどの問題が生じる場合もあります。「障害(障壁)は障害者にあるのではない。障害者との間にある“ことばに頼るコミュニケーションで図ろうとする認識”にある」「“聴こえない”ことそのものが問題なのではなく、それによって生じる不利益やトラブルこそが、今後解決しないといけない問題だと思う」といった学生のコメントからも、山本さんの目指す「ろう者も聴者も」というWin-Winの関係・環境を構築する必要性を強く感じました。実際、私も「歌舞伎の字幕タブレット」は借りて観劇したいと思いましたし、誰もが過ごしやすく、かつ力を発揮しうる社会を実現するうえで、不可欠な問題だと思うからです。

山本さんによるグループワークの講評

 この特別授業は、本学独自の「教育改革支援制度(別名:進一層トライアル)」の助成を得て、多様性(ダイバーシティ)を活かす社会の構築に不可欠な「あらゆる他者を尊重し、受容する良き関係性を築くこと」や、そための「心理的支援(ケア)」とは何か?を、実際の体験に近い形での経験を通して考えることをねらいとして、同じく心理学の大貫先生とペアで実施しています。「普通」だと思っていたことが「当たり前」ではないことに気づき、解らないことや知りたい世界が増えていく。それは学生だけでなく、私たちも同じです。後期の特別授業でも、まだ見ぬ他者の世界を知る楽しさや、様々に異なる人々とともに歩むうえで必要な理解や支援とは何かを追求する面白さを、実感できるようにしていけたらと思っています。

・関連記事
 真のダイバーシティ,実現に向けて