2014年11月15日土曜日

ニーチェのアフォリズムに親しむ ―第八回読書会―

倫理学とフランス語担当の相澤伸依です。11月14日の夕刻に開催した第八回読書会の様子をレポートしたいと思います。

東経大キャンパスに佇む
ニーチェ。
今回のお題本は哲学者ニーチェの『喜ばしき知恵』です。ニーチェの名前を聞いたことはある学生さんは多いかと思いますが、本を手に取って読んだことのある方は少ないのでは? この難しそうな分厚い本に果敢に挑んだ学生9名と教員3名が図書館ブラウジングスペースに集まりました。

今回のゲストファシリテーターは、関西を中心に哲学カフェや読書カフェを主催している菊地建至さんです。みんな、自分が「呼ばれたい名前」で名札を作って定刻にスタンバイ。まず、菊地さんことタケさんが、お題本の「アフォリズムという形式を楽しむ」という会の趣旨を説明しました。アフォリズムとは、思想を、学術論文ではなく短い文章によって表したものを指します。ニーチェの哲学書というと身構えてしまいますが、タケさん曰く「友達のツイッターを読むような気持ちで向き合ったらいいんだよ」と。この言葉のおかげでニーチェがぐっと身近に感じられたところで、本編がスタートしました。

輪になってお互いの顔を見ながら
話し合えるのも楽しい。
オープンスペースで開催したので、
覗いてくださった方もいました。
今回は、参加者が順番に、自分の気に入ったアフォリズムを紹介し、一言コメントを付すという形で進めていきました。「彼らの空想は、そこから怪物を作り出すのに精を出すが、それはあとあとその怪物と闘いたいからこそなのだ」(56)という一節を読んで友達の顔が浮かんできたという人。「人間嫌いとは、あまりに貪欲な人間愛の結果であり、『人間食らい』の結果である」(167)という一節が最近の自分の心境をぴたりと言い表していると感じた人。「われわれ哲学者たる者、『自由精神』の持ち主は、『古い神が死んだ』という報せを聴くなり、新たな曙光に照らされたような感覚を抱いている」(362)という節から神の死について考えを巡らせた人。

参加者一人一人の読みや思考を聴くことで、一冊の本をいろんな仕方で味わえることがよくわかりました。さらにファシリテーターのタケさんは、参加者が紹介したアフォリズムに合わせて、ニーチェの思想や時代背景などを説明してくださいました。こうして、知識を踏まえると、哲学者の言葉をよりよく理解できることも実感できました。

傍らでみんなを見守るニーチェ。
最後にタケさんは「ニーチェの言葉で励まされましたか?」と参加者に問いかけました。タケさん自身はニーチェの言葉に励まされるそうなのです。参加者の答えは様々でした。その中で面白かったやりとりを紹介します。

ある学生は「ニーチェの言ってることってけっこう当たり前のことだから、あんまり励まされはしない」とのこと。この言葉を聞いてタケさんは、「ニーチェよかったね、と言ってあげたい」と言うのです。どういうことかというと、『喜ばしき知恵』は、書かれた当時、社会を批判するラディカルな内容ゆえに大きな反発を買った本でした。しかし、この学生は、ニーチェの言葉にラディカルさは感じられないというのです。つまり、出版から150年を経て、ニーチェの言葉は当たり前に受け入れられるようになった。この変化を知ったらニーチェは喜ぶだろう、というのがタケさんの解説でした。

今回は、時代を超えて読み継がれてきた古典を読む面白さを、実感できた一時間半となりました。一人で取り組むのは難しい本も、みんなで読めば怖くない!学生さんには、古典に出会うきっかけとして、読書会を活用してほしいと思います。

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