2016年6月20日月曜日

【学問のミカタ】 急ブレーキは危険です

 「自然の構造」ほか担当の榎です。今回は、車、つまり、自動車や鉄道車両といった、タイヤや車輪がついた「乗り物」を加速・減速させる「力」の話です。

熊本電鉄6000形「くまモン電車」の車輪

 物体を加速させるには力が必要です。では、車を加速させる力は何でしょうか?「エンジンやモーターの力で加速するんだ」と思うかもしれません。しかし、車を加速させている力は、タイヤと地面の間に働く「摩擦力」です(鉄道車両の場合は車輪とレールの間の摩擦力)。エンジンやモーターの力ではありません。「エンジンやモーターがなければ加速しないじゃないか?」と思うかもしれません。確かにその通りですが、それは、エンジンやモーターの力でタイヤを回転させることが、結果的にタイヤと地面の間の摩擦力を生み出すからです。あくまでも、車を直接加速させている力はタイヤと地面の間の摩擦力です。もし、タイヤと地面の間に摩擦力がなければ、エンジンやモーターの力をどんなに強くしても、タイヤは空転しスリップするだけで車は加速しません。実は、摩擦力の性質から考えると、「エンジンの力を強くしすぎると、かえって車は加速しにくくなる」ということが分かります。

 ブレーキをかけて減速する場合も同じことが言えます。実際に車を減速させる力も、地面とタイヤの間に働く摩擦力です。ブレーキの力ではありません。もし、タイヤと地面の間に摩擦力がなければ、ブレーキの力を強くしても、タイヤの回転は止まりますが、スリップして滑っていくので車は減速しません。加速の場合と同じように、摩擦力の性質から考えると、「ブレーキの力を強くしすぎると、かえって車は減速しにくくなる」ということが分かります。これは困ったことです。車を運転している時に、車の前に飛び出しがあると、危険を回避するために、急ブレーキをかけてしまいがちです。しかし、急ブレーキをかけるということは、ブレーキの力を強くしすぎるということなので、かえって車は止まりにくくなってしまい、より危険な事態になる場合があります。これは、自転車やバイクでも同じです。この対策として、「ブレーキを強くかけすぎた場合に、わざとブレーキの力を弱める装置」を装備した自動車もあります。その装置って、何か分かりますか?

 さて、私は、「自然の構造」の授業で、以上のことを「摩擦力の性質」について話した後に、応用例として取り上げることがあります。車の加速・減速、というのは、摩擦力の性質をうまく利用したものなのです。摩擦力というのは身近なもので、いろいろなことに利用されています。しかし、摩擦力が発生する理由については、まだ分かっていないことも多く、これを解明することは最先端の科学研究のテーマの一つになっています。

【学問のミカタ】 6月のテーマ「乗り物」
・経済学部ブログ 「公共交通機関はぜいたく品?
・経営学部ブログ 「車が減ると駐車場は要らなくなる???
・コミュニケーション学部ブログ 「『乗り物』をデザインする力
・現代法学部ブログ 「ベビーカー問題にみる、子育て環境のバリアフリー化について