2015年7月31日金曜日

教員近著のご案内

全学共通教育センター所属教員の近著2件をご紹介します。

「教職論」ほか担当の高井良健一先生(経営学部教授)による、
『教師のライフストーリー: 高校教師の中年期の危機と再生』勁草書房
が5月に発行されました。
出版社による紹介
東経大図書館
・「たまのさんぽみち」著者の高井良先生ご自身によるメッセージが5月30日の投稿にあります。
・毎日新聞「憂楽帳」6月16日付記事での紹介
・東経大生協による紹介(Twitter
Amazon.co.jp

「日本文学II」ほか担当の大岡玲先生(経営学部教授・図書館長)による、
『たすけて、おとうさん』平凡社
が7月に発行されました。
出版社による紹介
Amazon.co.jp
・東経大生協でも大プッシュ中(Twitter
12編の短編のもとになった古典の名作と合わせた展示を9月ごろから図書館で計画しています。

夏休みの読書にどうぞ。

2015年7月16日木曜日

【学問のミカタ】 産んでちょうだいサンゴさん


 皆さん、こんにちは。生物学の大久保奈弥です。私は海の生物であるサンゴの産卵と発生の研究をしています。発生とは、精子と卵が受精した後、卵が分裂して色々な組織をつくる過程のことです。日本のサンゴは毎年5−8月に産卵し、その時期は色々な場所で実験します。だから、とても忙しいです。先週までは、沖縄県の瀬底島にある琉球大学瀬底実験所で、ダイオウサンゴとリュウモンサンゴという2種類のサンゴの観察をしていました。

 観察は、おそらくこのあたりに産卵するだろうという情報をもとに行います。そのため、産卵予定日の前後1週間、サンゴにずっとはりついて、夕方から夜中まで1時間おきに観察します。といっても、授業をずっと休むことは出来ないので、6月は、串本海中公園水族館で元館長をしていらした御前洋さん(サンゴ飼育の超プロで、世界で初めてサンゴの養殖に成功した方)に、科研費で沖縄へ行ってもらいました。そう、科研費とは、研究するために国からもらうお金です。税金なのです。だから、頑張らなくてはいけません。そして、この大きなお金がないと私の研究は出来ません。研究が出来ないと論文が書けません。Publish, or perish. 研究者の世界には、こんな恐ろしい言葉もあるくらいです。。。

 さて、話がずれましたが、写真が私の観察したサンゴさん達です。ボコボコしている方がダイオウサンゴで、波模様はリュウモンサンゴです。素晴らしいネーミングセンス。では、6月・7月と沖縄まで行って、ねばって、産卵観察できたのでしょうか?


ダイオウサンゴ
リュウモンサンゴ

 
 答え:残念ながら産卵しませんでした〜。

 自然というのはそういうものです。人間の都合通りには行きません。難しいですね。8月リベンジ決定です。

 私は、この難しいサンゴの発生観察を学生時代からもう15年くらい続けています。世界で一番、色々なサンゴの発生を見ているという自負があります。まあ、単に面倒なので誰もやりたくないのでしょう。おかげで最近、イシサンゴ目最大の謎の1つとされてきた、分類学上の問題を解くことが出来たようです(←私の分野のことじゃなかったので、いまいち実感がありません)。サンゴの研究を続けてきて、生物学という学問に、ようやく1つ貢献できたかなと思います。

 教員にとって、研究はとても大切です。例えば、理科教育の内容は、昔からの研究成果です。また、研究をしていると、生きた教育が出来ます。だから、なるべく色々な研究をして、皆さんに生き物の素晴らしさを伝えていきたいです。

 最後におまけで、サンゴを入れた水槽から見つかった、おそらく初めて発見されたであろう、オオイカリ(?)ナマコの赤ちゃんです!もちろん御前さんの発見です。さすが、プロですね〜!
 
 
オオイカリ(?)ナマコの赤ちゃん

2015年7月14日火曜日

トークイベント「宮澤賢治と星と石」

「地球の科学」ほか担当の新正です。

7月9日の夕刻17時より、図書館のブラウジングスペースで、「図書部」および「TKUサイエンス」によるトークイベント「宮澤賢治と星と石」を行いました。

昨年秋より6月初めまで、図書館入り口およびOPAC横のブックウォールで「宮澤賢治と不思議な石展」を行いました。それを受けて、自然に親しみ、石や星や生き物のことが作品に多数登場する宮澤賢治の作品世界について、文学・科学を専門とする教員が集まって、自由に語ろう、というものです。

まず図書館長でもある大岡玲先生が宮澤賢治の作品世界について熱く語られました。賢治の人物像からその作品群の特徴について、具体的な例を引きながら詳しく説明されました。

引き続き、新正が鉱物趣味の側面について、賢治の作品にも登場する鉱物標本の実物回覧を含めて話しました。

さらに宇宙物理学が専門の榎基宏先生が登壇されて、『銀河鉄道の夜』の一場面である教室での解説に触れつつ、天の川銀河の認識の話をされ、引き続きプラネタリウムソフトや10の冪乗(Powers of Ten)でのものの大きさの認識を経験できるソフトの紹介をされました。

4人登壇してトークショー。もう外は暗い。
ここで、研究用のクモの採集のため東経大キャンパスを訪れていた元現代法学部教員の中田兼介先生が飛び入りゲストとして加わられて、フリートークに移りました。そこで話は一気に生物のネタに移り、クモの体は死して腐るか?といった話から始まり、大岡先生から、賢治作品における動物や昆虫、植物の扱いについて、さまざまな側面から話題が振られ、トークが弾みました。その後客席からも多くの質問が寄せられ、とりわけ昆虫の振る舞いについての回答には感心されることしきりでした(アリは羽根のないハチ、であるとか、巣の外を歩いて餌取っているのはオバさんのアリである、などなど)。

キャンディ配布。
綺麗に包装していただきました。
天気が良ければ、日没の19時頃より図書館前に望遠鏡を出して惑星などを眺めることも企画していましたが、流石に曇天で残念でした。しかし、トークは19時半過ぎまで続き、終了後も、残った人々で感想戦が行われ20時を大きく回る行事となりました。


賢治についてはまだまだ語るネタは尽きず、また新たなイベントや展示を行いましょうと約して散会しました。

回覧した標本の一部
多数の学生・教職員にお運びいただきましたことに厚く御礼申し上げます。1期の「図書部」イベントはこれで全て終了ですが、2期も多様なイベントを計画しております。多くの方のご参加をお待ちしております。






【参考】
宮澤賢治と不思議な石展

2015年7月8日水曜日

TKUサイエンスツアー第1弾「情報通信研究機構NICTに行ってみよう!!」

数学担当の阿部です.7月2日(水)にTKUサイエンスツアー第1弾「情報通信研究機構NICTに行ってみよう!!」が開催されました.NICTは情報通信技術を扱う唯一の公的研究機関です.日本標準時を決めている機関としても有名で,ツアー前日の7月1日には「うるう秒」の挿入で全国ニュースでもたくさん取り上げられていました.このようにNICTは日本にとってとても大事な機関な訳ですが,実は本学から徒歩17分くらいのところにあるんです.ツアー当日は曇り空の下,学生19名,教員4名,計23名の参加者全員が一緒にてくてく歩いてNICTへ行ってきました.雨が降らずによかったです.


NICTにつきました
北東門近くで集合

情報通信技術と聞くとみなさんはどのようなものを想像しますか?真っ先に思い浮かぶのはインターネット,スマートフォンなどかもしれません.もはや我々の生活に欠かせないツールですが,いざ研究の最先端に目をむけると,これらツールを安心して何不自由なく使えている日常の裏側には実に様々な情報通信技術が折り重なるように用いられ,日々進化してることがわかりました.例えばサイバー攻撃.よく耳にする言葉ですが,具体的にどういう攻撃があって,その攻撃をどう防いでいるのかについて学びました.


日本標準時の説明を受ける。
そしていよいよNICTのセントラルドグマ!日本標準時を決めている部屋へと足を運びます.日本の時間を決めている機械がいま目の前でピカピカ点滅を繰り返しながら動いていました(ガラス越し).まさにここが日本時間の中枢です.時間の決め方や時計の神様と呼ばれる機械について説明を受け,正しく時間を決めるための技術や正確な時間を提供することが科学技術発展の土台になっていることを知りました.


展示室で様々体験
最後に展示室で最新の情報通信技術を体験しました.そこはまるでドラえもんの世界!日本語で話した言葉がすぐに英語やドイツ語などの音声で再生されるマイク,実際にはないものを触る事ができるペン(しかも固いとか柔らかいとか感触付きで!),などなど.参加者全員とても盛り上がりました.近い将来にはこれら最新の情報通信技術があなたのスマホで使えるようになるかもしれません.どんな社会になるのか,今からもうワクワクです!


【参考】 2014年度のサイエンスツアー
第1回:茨城県つくば市、国土地理院・農業環境技術研究所
第2回:茨城県東海村、原子力研究開発機構




2015年7月3日金曜日

フランスより2 ピクニックの季節

国外研究員としてパリに滞在中の相澤です。フランスに来て早3ヶ月が経過し、生活にも慣れてきた、いや満喫しているところです。春から夏にかけてのフランス生活を象徴するキーワードは「ピクニック」。その心は?をテーマに記事を書いてみます。

午後九時の風景。
ピクニックする人がたくさん。
日本で大人になってから「ピクニック」という言葉を使う機会はあまりないと思うのですが、フランスでは極めて一般的な言葉です。"piqueniquer"(ピクニケ:ピクニックする)という動詞があるほど。意味するところは、公園の芝生などの屋外で人とご飯を食べつつ、飲みつつ、おしゃべりすること。食事と飲み物は、参加メンバー持ち寄りが基本です。

フランス人はピクニックが大好きなようで、公園には、休日だけでなく平日も人々が集っています。では、なぜフランスで人はピクニックをするのか?以下、私なりの分析です。

なぜわざわざ外に出たいのか?
理由1. 屋外で活動するのに適した気候。日が長い!虫がいない!
まず、春から夏にかけてフランスは日がとても長くなります。夏至直後の今だと、朝6時頃から明るくなり、夜は22時頃にやっと暗くなり始めるので、一日がとても長く感じられます。人間、明るいと活動的になるようで、出かけたり、公園でおしゃべりしたくなる。
さらに、乾燥気候なので、気温が高くても過ごしやすく、蚊などのイヤな虫もあまりいません。(蚊対策グッズなども売っているが、必要があると感じない。)
つまりは、屋外に気楽に出られる、出たくなる気候なのです。

サンマルタン運河。
うちからは遠いですが、
先日友人と散歩しました。
両岸はピクニックする人だらけ。
なら、レストランのテラス席に行けばいいんじゃない?
理由2.  外食が高い。
日本では、友人と集うとなれば居酒屋で宴会となるところですが、フランスでは外食すると日本よりもずっとお金がかかるのです。お昼でも15ユーロ、夜は20ユーロ以下でちゃんと座って食事するのは難しいと感じます。人気のある店はこれより高くなるでしょうし、飲み物代もかかってくるわけですから、けっこうな出費。友人や家族で気軽に集いたいとなれば、持ち寄りが望ましいわけです。

持ち寄りってめんどくさくない?
理由3. 「日常」を楽しむのが上手。
これは私がフランス生活でとても好きなところ。フランスでは、特別なことをして楽しむのは本当に特別な時だけで、普通の日は日常を楽しむのです。マルシェで食材を買って楽しむ、毎食の調理を楽しむ、おいしい料理を食べて楽しむ、食べながら会話を楽しむ。フランス人は、日々の普通のことを楽しむのがとても上手だと感じます。
ピクニックも特別なことではなく、日常の延長にある。みんなが家の食卓で食べる物をそのまま持ち寄って、賑やかにおしゃべりして、豊かな時間を過ごす。それだけのことで、めんどくさくもなんともないのですね。

寮の芝生広場にて。
先日私も友人と夜ピクニック(明るい20時に集合)をしました。私はトマトとモッツアレラのサラダ、ポテトサラダ、パテの缶詰、チェリーを、友人Nさんは野菜パスタとワインを、友人Aさんはパンと中華お惣菜を持ち寄り。食事のイメージ、伝わるでしょうか?直前にちらっと持ってくる物を打ち合わせたので、バランスのよいメニューになりました。「これどうやって作るの?」なんて料理情報を交換することもしばしば。

フランス的には、夏至を過ぎると夏が来た!となるらしい。まだ夏は始まったばかり。ここ数日、フランスは40度近い猛暑に襲われていますが、熱中症にならない程度にピクニックで夏を満喫したいと思っています。

関連記事:フランスより

2015年6月28日日曜日

読書会報告:ジャレド・ダイアモンド『文明崩壊』

「地球の科学」ほか担当の新正です。図書部で一緒に活動している経営学部の板橋雄大先生に、読書会の様子をゲスト執筆していただきました。



6月25日に今年度3回目の読書会が行われました。ファシリテーターを担当しました板橋です。今回のお題本は、ジャレド・ダイアモンドの『文明崩壊』でした。

Amazonの歴史・地理ランキングにおいて、ジャレド・ダイアモンドの出した本が、現在の、1位、2位、4位、6位となっていまして、まさにベストセラー作家です。『文明崩壊』は上下巻に分かれた大著ですので、一回で全部は無理。今回は上巻のみをお題本としました。参加者は学生一名と教員三名と私の五人です。

図書館二階のリフレッシュ・スペースを使い、グアテマラ産の「究極のコーヒー」を味わいながらの読書会です。なお、後期には、「至高の紅茶」が提供される読書会を予定しています。もちろん、その回は紅茶と関連する本になります。

コーヒーが供されました!
さてさて、芳醇なコーヒーの香りに包まれながら読書会が始まった訳ですが、いきなりファシリテーターの度肝を抜くような展開になりました。一応、議論の種になるような資料も作っていたのですが、そんなものなくても参加者からは尽きない疑問と、コメントが出されました。

ファシリテーターとしては失格かも知れませんが、私もすぐに「議論の整理役」をほっぽり出して、議論に参加しました。「なぜ、過去の人は文明崩壊に最後まで気がつかなかったのか」、「自分達の文化圏の最後の1本の木を切り倒すとき、その人はどんなことを感じたのだろうか」、「なぜ、その文明の指導者達は、自分達の文明の存続ではなく、崩壊につながることが、ほとんど自明の決断をしたのだろうか」。

リフレッシュスペースでの開催
そうした疑問に、西洋の歴史から高津先生が、地学(氷河期や、気候変動について)から新正先生が、組織および人の行動原理から山口先生が切り込んできます。学生参加者も、負けじと食らいつきます。中には、我々も知らなかったような知識もあり、素晴らしい活躍でした。一人が答えを出せば、他の一人がさらなる疑問を投げかける。

まさに読書会らしい読書会で、私は楽しみながらも「これイベントにしたら十分お金取れるな」とか思っていたわけですが、やがて、リフレッシュルームには我々以外誰もいなくなり、楽しい読書会もそろそろ終了しなくてはいけません。

一応、読書会のまとめとして、結論めいたことを話し始める私ですが、誰も納得してくれません。「これ、下巻読んでもう一回読書会しましょう」、私以外の全員がそう結論して、私の最初のファシリテーターは終わりました。

ファシリテーターとしてはどうだったのかは分かりませんが、参加者が皆、下巻まで読みたいと思ったことは、読書会としては、大成功だったのだと思います。

皆さんも、こんな激論飛び交う読書会に参加してみませんか?お問い合わせは図書館カウンターまで。


P.S この記事を書いている6月27日に、EUが財政危機に直面するギリシャへの金融支援の延長を拒否しました。これで、ギリシャは国家の財政破綻(デフォルト)に陥る危険性が非常に高くなりました。

なぜ、ギリシャの人々は、財政破綻に至るまで状況を悪化させていったのでしょう。ギリシャの指導者達は、なぜ、財政再建ではなく、時間稼ぎを選択したのでしょう。EUの人々は、ギリシャの財政破綻がどのような影響を世界経済に及ぼすか分かっていないのに、なぜ金融支援の終了を決断したのでしょう。

イースター島の文明崩壊の道筋とあまりにも似たこの状況を見ると、我々の文明は、古代から本質的なところでは進歩していないのではないかと思いました。

参考:
読書会とBBQ」(2015年度第2回読書会の模様)
堺学長読書会『本日は、お日柄もよく』」(2015年度第1回読書会の模様)


2015年6月23日火曜日

【学問のミカタ】 もし梅雨という季節がなかったら…


「日本文学」担当の上野麻美です。

 じめじめと鬱陶しい梅雨の季節、からっと晴れた夏が待ち遠しく思われます。しかし、もし梅雨という季節がなかったら、日本文学はその独自性を失っていたのではないか、と私は思います。文字通りのウエットな国民性の本質的な部分がすっかり欠落するわけですから、当然、生まれる文学の傾向も大きく違っていたはずだと思うのです。
 
 しとしと降り続く長雨に降り籠められると、人は自ずと内省的になります。そんなとき、恋人や亡き人を思って詩歌を詠み、妄想に耽って物語を編む…。もし梅雨がなかったら生まれなかったのではなかろうか、と思われる作品は少なくありません。

 例えば『源氏物語』「帚木」の巻にある、俗に「雨夜の品定め」と呼ばれる場面を考えてみましょう。五月雨が降り続く梅雨の夜、主人公源氏を含む四人の男たちが、つれづれに恋愛談義を交わす有名な場面です。

 話はまず「女は上中下の三ランクに分けられるが、とりわけ中クラスに魅力的な女が隠れている」というコンセプトの提示で始まり、若い源氏に他の三人が過去の女性遍歴を語る、という趣向で展開します。まだ恋愛経験の少なかった源氏は三人の話に大いに刺激を受け、この場面は物語のその後の展開にも色濃い影を落とします。

  もし梅雨がなかったら「雨夜の品定め」は生まれなかった、と私は思います。降り続く雨で夜遊びにも出かけられず、暇をもてあました男たちが集う、という設定なくしてこの場面はなかったと断言します。もしこの日が晴れていれば彼らは恋人のもとを訪れるのに忙しく、野郎同士で恋バナする暇などなかったはずです。もちろん元カノを思い出すことなど微塵もなく、今カノのご機嫌とりに必死だったに違いありません。

  ……と、あらぬ妄想に耽っていると、研究室の窓の外も雨脚が強くなってきました。長雨のつれづれに思い出すのが元カレではない、という寂しい我が境遇が歎かれます。

 我が身世にふるながめせしまに…古歌がしみる梅雨の夕暮れです。